新しい時代「令和」を迎え、今後の日本の英語教育はどのようにあるべきなのか。新学習指導要領の全面実施を控えた今、小・中・高等学校における授業づくりや指導のあり方について、文部科学省初等中等教育局の直山木綿子視学官、情報教育・外国語教育課の山田誠志教科調査官、富髙雅代教科調査官にお話を伺った。(文中敬称略/『英語情報』2019創刊準備号より)

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編集部 「平成」から「令和」へと時代が移り変わりました。新学習指導要領のもとで、日本の英語教育はどのような方向を目指していくのか、改めてお話を伺います。まずは、先生方ご自身の教員経験も踏まえて、日頃から大切にされている思いをお聞かせください。

直山 私は京都市の中学校での英語科教員からスタートし、現在の京都市総合教育センター研究課で研究員として、京都市の小学校英語指導計画や教材を作成してきました。その後、同センター初等英語担当指導主事や京都市教育委員会学校指導課指導主事として小学校英語に携わるようになり、「外国語教育は何のためにあるのか」「言葉とは何のためにあるのか」について、小学校の先生や子供たちから初めて教わった気がします。言葉とは、「自分のことを相手に理解してもらい、相手のことを自分が理解するためにあるもの」です。中学校では、生徒に英語力を付けることが大事だと思って英語を教えていましたが、小学校の先生や子供たちと出会い、それまでの指導観を反省させられました。そして、子供たちに母語の力を付けるために外国語の力を借りる、そうして外国語の力も付ける。母語ではない言語、外国語の習得を通して、母語をメタ認知することで、改めて言語の素晴らしさ、豊かさ、言語で意思疎通を図る大切さを感じることができると考えています。AIが発展し、翻訳機械を通して会話が成り立つ時代になりましたが、自分で言葉をひねり出してコミュニケーションを図ることの大切さ、楽しさを伝えていくことが、今、私に求められていると、改めて感じています。

山田 私は岐阜県の中学校の英語科教員として4校に勤務し、大垣市指導主事、岐阜県教育委員会の指導主事を務めました。教員在職中には、文部科学省の英語教育海外派遣研修に参加し、第二言語習得理論を学ぶ機会を得ました。加えて、実際に自分が学習者として英語を改めて学ぶ体験をしました。それらのことが、英語教員としての礎を築くことにつながっています。授業ではいかに生徒に英語を使わせる体験をさせるかということが大事であり、教員はそのことを信条として授業に臨まねばならないと痛感しました。帰国後に研修で学んだことを実践したところ、生徒の学びに対する姿勢が大きく変わり、テストの点数も伸びました。その時の経験があるからこそ、「英語は実際に使わなければ身に付かない」と、実感を持って研修の場などでお伝えしたいと思っています。

富髙 私は2003年から6年間カナダのオンタリオ州立ブロック大学ESLで約30カ国の学生に英語を教えてきました。その後、宮崎県で指導教諭として高等学校の英語教育に従事し、文部科学省には昨年度、専門職として入職しました。今年度から教科調査官を務めています。カナダでは第二言語習得理論に基づいて、多様な文化的背景を持つ学生たちに英語の授業をしてきました。英語をほとんど学んだことがない初級クラスの指導、母語の影響の出やすいライティングの指導、語彙の言い換えや文の例示の仕方、帰納法的な文法指導などで試行錯誤したものです。帰国してからは、宮崎県内の工業高校や総合制専門高校で教壇に立ち、中学校で英語に苦手意識を抱いた生徒たちが、どうしたら英語に対して前向きになれるかを考えて授業をしてきました。専門高校の生徒の多くは卒業後すぐに社会へ出ます。将来、英語が必要な場面に遭遇したときに、積極的に英語と向き合える生徒を育てたいと、英語科一丸となってチームで授業改善に取り組んできました。

生徒が英語を使って、考えや気持ちを伝え合う授業づくり

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編集部 大学入試での外部検定試験の活用、普通科高校の改革、専門高校における英語教育のあり方など、高等学校の現状はいかがでしょうか。

富髙 普通科高では大学入試を目標とするのではなく、その先を見据えた英語教育が必要だと思います。専門高校では英語の授業が多くないなかで、いかに英語を使うことに自信を持たせ、英語学習へ意欲を持たせるかが課題となります。それには、中学校までに学んだことを言語活動で繰り返し活用させたり、専門性と絡めて英語を使う機会をできるだけ多く与えたりすることが大きな鍵となるでしょう。高校入試は随分変わってきていますが、それでも点数による評価が英語への苦手意識を持たせてしまう状況はあります。苦手意識を持つ生徒たちには、学ぶ意欲やきっかけを引き出す工夫が必要であり、中学校や高等学校でいかに英語を学ぶことへの意味を感じられる体験をさせるかが重要だと思います。卒業後、再び英語を使用する場面に遭遇することを想定し、その際には高等学校までに学んだことを生かして前向きに英語に向き合える、生涯にわたって英語の習得に取り組む態度を育てたいものです。

編集部 大学入試改革を受けて、今後は高校入試や中学校の教育にも焦点が当たることになるでしょう。東京都では都立高校入試にスピーキングテストが導入されますが、今後、他地域にどのような影響をもたらすのでしょうか。

山田 高校入試は各都道府県で改善が進んでいます。今後は、「全国学力・学習状況調査」の英語の問題も参考に、結果の分析もしっかり行ったうえで、より良い入試問題を作ろうとする方向性を持ち続けていただきたいと思います。昨年度に教科調査官となって以来、全国の中学校を訪れ、授業を参観させていただきました。授業改善に取り組む先生方の熱意、努力には頭が下がる思いです。もちろんまだ課題はありますが、各地の先生方の実践事例を広めていくことが、私の仕事でもあると感じています。中学校は教室内での生徒の学力差があり、加えて、いわゆる「思春期」といわれる時期であるがゆえの指導の難しさもあると思います。そのなかで、「どの生徒も大切にした指導をいかに行うか」が大切になります。中学校では教えるべき言語材料が多く、高校入試も見据えながら、それらを理解・定着させることも求められますが、文法事項の説明から入る従来のような指導でよいとは言えません。新学習指導要領では、授業を実際のコミュニケーションの場面とし、自分の考えや気持ちを伝え合う言語活動を通して資質・能力を育成すると示されています。先日訪れた中学校の授業では、日本文化の紹介を題材として扱っており、先生は浮世絵が西洋絵画にもたらした影響に関する教科書本文の内容に目を通させたうえで、生徒に「浮世絵のような日本文化についてどう思うか」と英語で問い掛け、生徒同士で意見交換をさせていました。授業後に英語が苦手な生徒たちに「日本文化について、英語で意見を伝え合うのは難しくなかったか」と尋ねると、予想外の答えが返ってきました。生徒たちは、「難しかったが考えることは楽しい」「ほかの人の考えを知るのは楽しい」「英語で自分の考えたことを話せるのはうれしい」「ゴッホが浮世絵に影響を受けて作品を残したことが分かって面白い」などと口々に話したのです。生徒たちは、お互いの考えをやり取りしたり、英語ではどのように表現すればよいのだろうと考えたりしながら、お互いに助け合って、話し合っていました。これからの中学校の英語教育には「生徒が自ら考える喜び、自ら気付く喜びを味わう可能性のある授業づくり」が重要であると思います。

学校種を超えた連携の重要さが増していく

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編集部 中学校は、小学校と高等学校の橋渡しの役割が大きくなり、これまで以上に、小中連携や中高連携の重要性は増すでしょう。小・中・高等学校の教員がともに授業づくりについて考え、実践し、改善を進めていく必要がありますね。

山田 小中高連携の実態には地域差があるかと思いますが、調査上は小中連携を行っている地域の割合は上がっています。各地域にある高英研や中英研に加え、最近では、小英研や小中英研といった組織も作られています。校種間の連携を成功させるためには、お互いが同じゴールを目指す英語教員として、相手の校種の先生から学ぼうとする謙虚な姿勢を持つことが大切です。

直山 小学校で外国語活動が始まった当初、小学校の先生はまさか自分が外国語の指導に携わるとは思っていなかったという方がほとんどだったと思います。私が2009年度から教科調査官として各地の研修などに伺った際には、そのような先生方に随分出会ったものです。しかし、小学校の先生方は大きな壁を乗り越えました。学級担任として全ての教科等を教えているからこそ、他教科等と関連させた内容や活動をうまく外国語教育に取り入れて、豊かな学習活動をされています。例えば、『We Can! 1』のUnit 1では、サッカーの長友佑都選手のビデオメッセージを視聴する活動があります。映像を見せると子供たちは、彼が愛媛県出身であること、プロサッカー選手であることなどを聞き取れた言葉を基に理解します。すると先生は、“Oh, Ehime! Where is Ehime?”と問い掛け、社会科での都道府県の学習とつなげます。“Shikoku!”と答える子供たちに対して、先生は“Yes, that’s right. How many prefectures in Shikoku?”とさらに問い掛けます。子供たちが“Four!”と答えたら、すかさず“Four prefectures? Tell me.”と県名を答えさせ、黒板に書き出していくのです。そうして子供たちとやり取りをしながら、社会科が得意な子が輝くような授業を展開しています。学級担任として学級の子供たちの実態を把握できているからこそ、単元の内容に応じて、算数や理科、家庭科などと連携して、得意なところも引き出しながら授業を上手に進めています。学習指導要領のもとで小・中・高等学校がつながっており、中学校が果たす役割はますます重要となります。小学校では、外国語活動で外国語の音声や表現に慣れ親しみながら、自分の考えや気持ちを伝え合う体験をします。外国語科では、自分の考えや気持ちを伝え合う活動をし、経験を重ねます。中学校では、さらに表現を加えて自分の考えや気持ち、事実を伝え合いながら、表現などを分析的にも学習し、文法と結び付け、新しい場面でもコミュニケーションの目的や場面、状況に応じて伝え合える力を身に付ける指導が必要になります。それだけに、今後はますます小中連携、中高連携、小中高連携の重要さは増し、他の校種ではどのような内容を教え、子供たちが何ができるようになっているのかを把握しておくことが必要でしょう。

山田 生徒に使わせたい言語材料をどのタイミングで教えるかは、中学校の課題であり難しさであると思います。授業では生徒が英語を使う場面をできるだけ増やして、豊かなコミュニケーションが成立している状態を目指しつつも、そのやり取りのなかでいかに自然にターゲットセンテンスを生徒たちに聞かせたり読ませたり使わせたりするか、そのバランスをどのように取るかが鍵となります。それには言語使用の場面設定が重要であり、指導の工夫が求められます。中学校の先生方にはそのような授業をつくり、教えるプロとしての腕を磨いていただくとともに、そのような授業をつくることに喜びを感じていただけたらと思います。

子供たちの未来のために、まずは一歩を踏み出してほしい

編集部 最後に、全国で授業改善に取り組んでいらっしゃる先生方に向けて、応援メッセージをお願いします。

直山 小学校の先生方はこれまで大変な努力を重ねてこられました。中学校や高等学校の先生方からは「小学校の先生から学ぶことが多い」という声が聞かれるほどです。そのことにぜひ、自信を持っていただきたいものです。そして、「何のために言葉はあるのか」ということに改めて思いをはせていただきたいと思います。言葉とは人と人をつなぐためのものであり、戦うための武器ではありません。小学校の先生方は、子供たちが英語に触れる入り口に関わっているというプライドを持ってください。そして、母国語以外の言語で伝え合う楽しさを自ら感じ、その後ろ姿を子供たちに見せていってください。“Learning through Doing.” やらずして成功はありません。新学習指導要領の全面実施まで、小学校は1年を切りました。文部科学省としては、今後も先生方をできる限り支援してまいります。

山田 教員の多忙化が問題視されるなか、中学校の先生方が、授業のほか学校行事や生徒指導、部活動などもありながら、授業改善に真摯に取り組んでいらっしゃることは尊敬に値します。その一方で、まだ言語活動主体の授業を実践されていない場合には、まずは一歩を踏み出し、「言語活動を通して指導する」ことを意識した実践に取り組んでいただきたいと思います。文部科学省としても、そのような実践例をさまざまなチャンネルで紹介させていただきます。また、互いの考えや気持ちを伝え合う言語活動の充実を図るためには、まず教師自ら自分の考えや気持ちを生徒に伝えてほしいと思っています。1分でも2分でもよいので、自分のことを英語で話してみてください。そうすれば生徒も先生の言葉に耳を傾け、自分のことを英語で話そうと意欲を見せるはずです。全ては未来ある生徒たちのために。教師、指導主事、調査官、みんなでがんばっていきましょう。

富髙 大学入試も変わり、教育課程も変わります。現在進んでいる改革は、高等学校の先生方にとって“追い風”となります。現行の学習指導要領のもとで先生方が実践されてきたことに自信を持ち、これからも指導を続けていってください。新学習指導要領の目標では、小・中・高等学校のいずれも「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」という表現が使われており、解説では「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」について「外国語によるコミュニケーションの中で、どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという、物事を捉える視点や考え方」であるとしています。英語の授業を通じて生徒に「見方・考え方」を身に付けさせ、生徒が英語を使って何ができるようになるのかを意識して、日々の授業に臨んでいただけたらと思います。

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文部科学省 初等中等教育局
直山 木綿子 視学官
文部科学省 外国語教育推進室 教科調査官、国立教育政策研究所 教育課程調査官・学力調査官を併任

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文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 外国語教育推進室
山田 誠志 教科調査官
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官、国立教育政策研究所 教育課程調査官を併任

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文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 外国語教育推進室
富髙 雅代 教科調査官
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官、国立教育政策研究所 教育課程調査官を併任

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