新潟大学
准教授 渋谷 徹 先生

新型コロナ禍により、授業の中でこれまでのようなコミュニケーション活動を行うことが難しくなっている。なにしろ、教室では次のような「新しい生活様式」の下で学習が進められているのである。

  • 机は1m以上離し、ペアやグループを作っての学習は避ける。
  • 対面での会話はしない。
  • マスクをして正面を向いたまま発言する。

「『対話的な学び』なんて無理!」
「こんな制約の中で、どうやってコミュニケーション能力を育てたらいいの?」
これが、現場教師の切なる声である。

私たちはアフター・コロナをじっと待つのではなく、ウィズ・コロナを見据え、新しい時代の新しい授業を創造するべきである。学習指導要領が言うように、コミュニケーション活動の命は「コミュニケーションの目的や場面、状況の設定」にある。「新しい生活様式」の下なのだから、「新しい目的や場面、状況」を創り出せばよい。「新しいコミュニケーション活動」を創造するのである。ピンチはチャンスである。

新型コロナ禍により、GIGAスクール構想が前倒しされ、学校のICT化が加速している。これを生かさない手はない。ICTの活用によって「新しい目的や場面、状況」の設定が可能となるからである。

新潟県長岡市立下川西小学校の水澤公彰教諭が、6年生教室で行った実践『Junior High School Life』を紹介する。新型コロナ禍前の令和2年2月18日に行われた授業であるが、水澤教諭の設定したコミュニケーション活動は、ウィズ・コロナ時代の英語教育に大きな可能性を示唆してくれる。

この単元で,水澤教諭がゴールとして設定したコミュニケーション活動は、「中学校で自分が入りたい部活動についてスピーチする」ことである。この活動自体に何ら新しさはない。しかし、水澤教諭は、この活動をICTを活用した遠隔授業をとおして実現することによって、これまでにはない新たな「目的や場面、状況」を創り出したのである。次のようにである。

  1. 「下川西小学校の6年生」「同じ中学校に進学する福戸小学校の6年生」「進学先の江陽中学校の英語担当教諭」の三者をオンラインコミュニケーションツール(本時ではMicrosoft Teams)でつなぎ、小中3校でコミュニケーションができる場を設定する。
  2. 両校の「6年生が入りたい部活動人気ランキング」を予想する。
  3. Webカメラに向かい、相手校の6年生と中学校の英語担当教諭に、自分が入りたい部活動についてスピーチする
  4. 相手校のスピーチを聞きながら、「入りたい部活動」をカウントしていく。
  5. それぞれの「入りたい部活動人気ランキング」の結果を確認し、両校のランキングの違いに気付く。
  6. 中学校の英語担当教諭からスピーチについてコメントをもらう

子供たちのスピーチは例えば、次のような内容である。

Hello. My name is Kimiaki Mizusawa.
I like running.
I can run fast.
I want to join the soccer team.
Thank you.

上のスピーチを学級内だけで行ったら、子供たちの発表会へのモチベーションは随分と希薄なものとなってしまうだろう。同級生に改めて名乗る必要などないし、同級生が何が得意なのかについても大方既知の情報だからである。

しかし、オンラインによって退屈なコミュニケーション活動が一変する。コミュニケーションの相手が隣りの学校に通うまだ見ぬ友人だからである。そして、数か月後には同じ教室で学ぶことになる友人だからである。子供たちは、次のような目的意識をもって授業に臨むことになる。
「相手校の6年生や中学校の英語の先生に、自分が入りたい部活動を英語で伝えたい。」
「下川西小学校と福戸小学校、両校の部活動の人気ランキングを知りたい。」
「自分と同じ部活動に入りたい友達がどのくらいいるのかを知りたい。」
「相手校の6年生と入りたい部活動について伝え合い、仲良くなりたい。」
 授業後、両校の子供たちは次のような感想を書いている。

  • みんなが英語で中学校で入りたい部活を話したので、入りたい部活が分かったし、みんなと話したことによって仲良くなれました。
  • 福戸小のみんなの顔と名前が分かったのでよかったです。
  • 入りたい部活動が自分と同じだったりしたので、楽しみです。
  • いろいろな人と同じ部活には入れると分かって中学校生活も楽しみになってきました。
  • 早く中学校で会いたいと思いました。
  • 今日の授業で、中学校の先生の授業が楽しみになりました
     

水澤教諭の設定した「目的や場面、状況」によって、子供たちのコミュニケーションが「ごっこ」ではなく「ホンモノ」になっていることが分かる。

従来の枠組みにとどまっていてはならない。コミュニケーション形態を工夫することにより、授業の可能性は大きく広がる。今こそ知恵を結集し、ウィズ・コロナ時代の「新しいコミュニケーション活動」を共に創り出していこう。

 

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