茨城県教育庁学校教育部義務教育課
指導主事 入之内 昌徳 先生

1.英語をコミュニケーションの手段として使うことができる授業の実現に向けて
 いよいよ来年度から新中学校学習指導要領に基づく指導と評価が全面実施となり、だからこそ、今改めて、これからの時代を担う全ての子どもたちの学びの可能性を信じ、生涯にわたり英語と付き合うことができるよう働きかけていくことが、中学校の英語教育にかかわる我々の役割であることを再確認できればと考えています。

 研修会などで先生方にお願いしていることは、「児童生徒との rapport(ラポール)を構築し、Exposure(英語に触れる機会を増やすこと)& Experience(英語を用いる経験を増やすこと)を意識した授業づくり」です。さらに、指導主事の立場から「先生方と子どもたちのラポールを基に、授業そのものがコミュニケーション活動の場となり、すべての子どもたちが授業で小さな成功体験を積み重ねられるような授業改善へと改善が進められるように支援していきます。」とお伝えしています。
 また、各市町村教育委員会の担当者には、「授業で子どもたちに成功体験を積ませるために、教室には間違いを恐れずに発言できる雰囲気があるか、友達の間違いを受け入れる学級風土があるかを見てほしい。」とお願いしています。
 学校教育法第30条では、「生涯にわたり学習する基盤」を培うには、①基礎的な知識・技能の習得、②知識・技能を活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等の育成、③主体的に学習に取り組む態度が重要であることが示されています。
 そのためには、英語の授業で何をするのか。それは、単に知識を授けるだけではなく、子どもたちに学習者としての自信を与えることが大切です。そして、教師の役割は、4技能の学び方を教え、学校の外でも英語を求めていく子どもたちを育てることです。さらに、卒業後も英語と関わりを持ちながら生活し、社会や世界とつながっていくことのできる人、つまり、自律した学習者を育てることです。
 新学習指導要領では、「授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする」と示されています。だからこそ、先生方には、日本人としての English User / Learner としてのロールモデルが求められています。授業では、ぜひ「自らの考えや気持ちを伝えたり、生徒の間違った表現や発音をさりげなく言い換えたりする Userとしての姿」、さらに、「英語を習得しようとする情熱を持ち続け、多忙な時間をマネジメントしながらも、英語をブラッシュアップするために学び続けるという Learner としての姿」を、子どもたちに見せていく「英語の伝道師」となっていただきたいと願っています。
 授業以外の場面でも、廊下でALTと英語で楽しく会話する姿や、朝の読書の時間にペーパーバックを読んでいる姿など、授業以外でも英語を使ったり、積極的に英語に触れる機会を求めたりする先生の姿を見て、子どもたちは必ずインスパイアされるはずです。

 ここで、私が感動した、笑顔溢れる授業のエピソードを紹介します。
 少し前ですが、ある全国大会の高校2年生の授業では、友人が授業者でした。教師と生徒の豊富なインタラクションを軸に展開されていました。その授業では、教師と生徒の親和関係が感じられました。間違いを恐れずに堂々と自分の言葉で伝える勇気ある男子生徒の姿は今でも忘れられません。教師の役割は、生徒の発話を引き出し、つなぎ、伝え合う喜びを感じさせることであると感じることができるとともに、生徒の発言を真剣に受け止め、クラス全体で情報共有を図るファシリテーターとして、笑顔で授業を行う友人の姿に感動しました。
 また、県内のある中学校3年生の授業では、グループで一生懸命聞いてくれる友達に、自分の考えを英語で伝えている女子生徒の姿が見られました。これは,仲間がいるからこそできる、学校だからこそできる場面でした。英語で必死に伝えながらも、使うことを楽しんでいるかのような笑顔は忘れられません。また,常に生徒に寄り添い、認めたり励ましたりしながら支援する授業者の姿も大変印象的でした。
 さらに、私が市教育委員会で勤務していた頃、ALTを県立特別支援学校へ定期的にキャラバンとして派遣し、英語に触れる機会を提供する事業を実施しました。授業を参観した校長先生が、「こんなに楽しそうな子どもたちの笑顔と、いきいきと英語に親しむ姿を久しぶりに見ました。」と涙ながらに語ってくれた言葉は、何物にも代えがたいものでした。
 訪問等を通して、多くの授業を参観させていただき、感動したり、学ばせていただいたりしていることはとても貴重な財産だと思っています。共通することは、先生も授業を楽しんでいることと、そして,「子どもたちの笑顔」です。

2.Good communicatorとしての指導主事を目指して
 我々のミッションは、常に全ての児童生徒が「英語を用いて、自分の考えや気持ちを相手に伝わった喜びを味わい、できたという自信がもてることで、各学校段階を通して、生涯にわたり英語学習へのモチベーションを高められるようにすること」であると考えています。
 だからこそ、本県では、「着眼大局、着手小局」の視点で、2030年、2040年の社会を生きる子どもたちの「使える英語力」を育むため、義務教育課と高校教育課の担当者同士が頻繁に情報共有を図りながら、小中高を通じた様々な施策を打ち出しています。
 そのために、日ごろから人と人とのつながりを大切にし、自分の課だけでなく、教育委員会内の別の課や他部局と話し合いながら、事業を構築していくことを心がけています。時には、他の都道府県の指導主事との情報交換を通して、他県の取組を参考にすることで、施策立案に役立てています。
 さらに、研修センターや各教育事務所及び各市町村教育委員会の担当者、現場の先生方やALTに相談することで新たな視点に気付くことがあります。また、外部専門機関の有識者に助言を受けたり、共同で事業を行っている英語教育関連団体と連携を図ったりすることで、各事業を円滑に進めることができているとも考えています。
 私たち指導主事は、一人では何も成し遂げることができません。だからこそ様々な人たちとのコミュニケーションを積極的に図らなければ、これからの英語教育の充実はないと考えます。このようなコロナ禍においても様々な困難な課題がある中で、常に「前へ」という positive attitude をもち、自身がファーストペンギンという気概で、失敗を恐れずに挑みたいと考えています。


3.本県の英語教育の現状について
 (1)児童生徒の英語力向上に向けて
  先月、文部科学省より公表された「令和元年度英語教育実施状況調査」では、本県の中学3年生の英語力は、48.3%
 (全国平均42.8%)と前年に比べプラス6.7の着実な伸びが見られます。これまで取り組んできた小学校段階からの学び
 の接続の成果であると同時に、中学校教員の意識の変化や、県内の約半数の市町村教育委員会が行っている外部検定試験
 等への公費助成事業が実を結んでいるものと捉えています。
  昨年より、「児童生徒の英語力向上事業」として、小学校では、6年生で「小学校英語トライアル」を導入しました。
 小学校段階における学習成果を客観性が担保された共通尺度で表すもので、一人一人の学びを中学校へしっかりと引き継
 ぐ「小中接続ツール」として活用することができます。さらに、複数の小学校から中学校へ入学する子どもたちの実態を
 踏まえ、「中学1年生の導入期の授業づくり」に役立てることができます。また、中・高校生(※高校は希望制)には、
 英検IBA(RL版)のアセスメントテストを年1回導入したことにより、約8万人規模の生徒がこれまでの学びの成果が
 「見える化」されました。生徒一人一人が「できるようになった自分」に気付き、達成感を味わい、次なる学習への意欲
 や自信を高めることできると考えています。
  加えて、本年度からは、県立特別支援学校で外国語の学習する視覚及び聴覚等の障害のある生徒も活用できるよう、日
 本英語検定協会より配慮版が提供されることになっています。
  さらに、中学2年生には、本年度より英検IBA(4技能版)を実施する予定です。

(2) ICTを活用した英語教育へのチャレンジ
 ① 小中学校における遠隔教育実証研究事業
   本事業では、本県の「スペシャリストを対象とした特別選考」で採用した英語力の高い日本人やALT経験者の5名
  を、各モデル校へ配置しました。また、各校では、スペシャリスト教員による授業実践とEdTechソフトウェアの
  「NTTドコモEnglish 4skills」の導入により、多様な子どもたち一人一人に個別最適化された学びを実践していきま
  す。
   <参考>茨城県教育委員会HP「質の高い教育を実現するための遠隔教育に関する実証研究」
       https://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/gakkou/shochu/gakuryoku/enkaku-houkokusyo.pdf
 ② コロナ禍にあっても児童生徒の学びを止めない取り組みとして、県内の各市町村教育委員会と各小中学校の教員の協
  力により、オンデマンド型授業動画の配信を行っています。
   <参考>茨城県教育委員会HP
       https://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/gakkou/shochu/ibasuta/index.html 
 ③ 英語プレゼンテーションフォーラムの開催(中・高校生)
   本県では、平成11年より「英語インタラクティブフォーラム」という3人一組で英語によるインタラクションする事
  業を20年以上続けてまいりました。新学習指導要領で求められる授業改善を目指し,この後継事業として、新たに構
  築しました。
   この事業はグローバルな視野をもち,他者と協働しながら課題を解決し、自分の意見を英語で発信することができる
  人財を育成する目的とします。教科等横断的な課題解決型のテーマのもと、ICTを活用するグループでのプレゼンテー
  ション(「話すこと[発表]」)を行い、さらに、生徒相互の質疑応答(「話すこと[やり取り]」を通して即興性を
  育むための新たな取組です。今年度のスタートを予定していましたが、今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大予防
  の観点から開催を中止しました。
 ④ 県教育研修センターにおいては、「指導したことを評価する。評価することを指導する。」をコンセプトに指導力向
   上の新たなオンラインでの研修を、本年度より「知識や技能を『活用』する力を高める指導力向上研修講座」をスタ
  ートしました。
   文部科学省の山田誠志教科調査官を講師に迎え、年間を通した講義やワークショップ型研修では、教師の作成する評
  価問題検討の4つの視点(妥当性・信頼性・波及効果・実用性)を踏まえ、活用する力を育成するための授業と評価問
  題の重要性や事例を知ることで、従来の評価問題の抜本的改善と,授業と一体的な評価問題を作成する力を身に付ける
  ことを目的としています。

入之内先生3cut24.最後に
 AIの飛躍的進化に伴い、社会が加速度的に変化している今日、将来を担う子どもたちには、様々な変化に積極的に向き合い、新たな価値を創造していくことが求められています。教育おいても先端技術が導入されるなど、日々変化は絶えず、オンラインでの学習でも双方向的なやり取りに加え、対面授業を組み合わせたハイブリッド化も求められています。
 一方で、これからの時代を担う人財を育成するためには、人と人とのコミュニケーションが重要であると感じています。
 グローバル化の進展に伴い、国境を越えた人や情報などの移動が益々加速する中、在留外国人数の増加で、学校においても、様々な国籍の児童生徒が共に暮らす状況があります。これからの時代に求められる「異文化理解」の教育の重要性が増し、違いを認め合いながら、相手を敬い、協力して共生社会を作り上げることが大切になってきています。
 さらに、このような予測できない変化の時代だからこそ、外国語におけるコミュニケーション能力が、生涯にわたる様々な場面で必要とされる時代であり、新学習指導要領で求められる中学校外国語教育の充実に向けて、教育行政に携わる一員として、現場の教師の下支えをしながら、共に前へ進んでいきたいと思います。

入之内先生1

 

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