旭川市教育研究会外国語部
研究部長 門田 純 先生
(旭川市立春光台中学校 教諭)

1. はじめに ~「当たり前の教育」が当たり前でなくなった日~


                                 「新型コロナウィルスによって休校を余儀なくされた学校現場。」
                                 「ウィルスの恐怖におびえながら、校内の消毒作業に追われる日々。」

 始めのうちは「この機会に教材研究を進めよう!」と前向きな気持ちで仕事に臨んでいた私ですが、生徒が登校するメドが立たぬ日々。教材研究ははかどるのですが、やればやるほど心の中に虚しさがこみ上げてきます。そして当たり前のことに今更ながら気が付きます。
 「こんなに教材研究したって、教える生徒がいないなら何の意味もない。結局教師なんて、生徒がいないと教師になれない。教師の存在意義もない。」と・・・。

2.不測の事態で、生徒の学びを保障する難しさ

 「生徒が学校に登校できない状況で、学びの継続をどのように進めていくか?」おそらく全国の学校が直面した大きな問題だったことでしょう。オンライン授業ができる環境や教材もないため、当初は必要な学習のプリントを各家庭に届けることが精一杯でした。ただ、生徒の学力は千差万別であることから、それが「本人の学力向上」や「さらなる学習意欲の喚起」、「英語力の向上」につながったかというと、決して十分だったとは言えないでしょう。それでも旭川市では、全小中学校でラインズeライブラリアドバンスを導入していたことが幸いしました。個人の学力に合わせた課題を自ら学習できる環境があったため、休校中も家庭学習で活用した生徒も少なくありませんでした。
 休校期間は長引き、学習の遅れが懸念されます。生徒の学びを止めたくはない、と考えた私は、英語の文法解説動画を作成し、本校のホームページにアップすることができないか検討しましたが、諸般の事情で現実のものとはなりませんでした。
 その後、本格的に学校が再開しましたが、英語の授業で不可欠な会話活動やペアワークなどが制限されるなど、まさに前途多難な状況でした。

3.ICTへの期待(The Road to “Information and Communication Technology”)

 文部科学省は昨年12月にGIGAスクール構想を発表しました。その狙いは、すべての子どもたちに個別最適化された創造性を育む教育を実現するために、「全小中学校の児童生徒1人に1端末」「全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを整備」することです。残念ながら新型コロナに一歩後れを取った形になりましたが、これからの教育現場において、必要不可欠であることは間違いありません。
 私は北海道最北の浮島、利尻島で教員生活をスタートさせました。当時の学校にはインターネットも普及しておらず、僻地ならではの教育の難しさも多々ありました。GIGAスクール構想が実現すれば、少なくとも教育分野においては「僻地」ではなくなります。時間や距離の制約なく良質な学びにつなげることができるでしょう。また、ICTによる遠隔授業により、海外の人々や様々な専門家と連携した授業が容易になります。これまでは、学んだ英語を実地で使う機会は極めて限られていました。ICTの整備によって英語学習者の学びの場が世界へ広がると言っても決して過言ではないでしょう。

22                                                                        最北の夢の浮島「利尻島」

  個人的には、ICTが整備されることで、パワーポイントやデジタル教科書の有益性が一層高まると期待しています。特にパワーポイントは、複雑な文法構造を指導する際でも「視覚的に」理解させることができます。生徒が興味ある画像を多数織り交ぜ、次から次へとスピーディーに例文を提示し、生徒たちに新出文法に慣れさせることができるとても便利なツールだと私は感じています。
 パワーポイントが有効なのは、なにも通常学級の生徒だけではありません。私は現在特別支援学級(知的)の担任を務めており、通常の学級3学級に加えて、特別支援学級でも英語の授業を行っています。もちろん理解力に幅はありますが、知的障害学級の生徒であっても、私が通常の学級で使用しているパワーポイントで十分指導可能です。裏を返せば特別支援学級で有効だったパワーポイントが、通常の学級で有効にならないはずがありません。
 これまでは「教室に設置されているテレビが小さい」「大きいテレビがあってもいちいち特別教室から移動しないといけない」「タブレットや接続機器が十分でない」など、様々な課題がありましたが、ICT環境が整うことでこれらの課題はすべて解消されます。
 「先端技術を活用して、子どもの力を最大限に引き出す学び」を追究する上で、一刻も早い整備が期待されます。

3                                       童謡「カエルの歌」に合わせた替え歌の歌詞で,助動詞の意味をまとめて覚えさせる授業

4.旭川市の取組

 私が勤務する春光台中学校は、旭川市からICT実践指定校を受けています。来年4月から、ICTを授業で本格的に活用するために様々な準備を進めています。「実際にICTを活用して授業を進める上で、どのような問題点があるか?」「生徒に1端末が与えられた場合の管理マニュアルはどうするか?」「生徒端末が壊れた場合の対応は?」など、校内研修を通して様々な課題を洗い出しています。せっかくの機器が揃っていても、使う教員が精通していなければ宝の持ち腐れになります。英語教員として、ICT機器に関する知識・技能を高めることは、英語教育の更なる可能性を広げることができると同時に、英語教師として生き残るうえで不可欠であるように思います。
 そうは言っても個人で努力できることは限りがあります。旭川市はICT活用推進に当たり、外部人材を含めたプロジェクトチームを設置しようと計画を進めています。外部人材がICT活用の可能性を広げ、様々な実践例を提供することで、我々教員もスムーズに導入することができるようになるでしょう。

5.旭川市教育研究会「外国語部」の取組み

 私は、今年度旭川市教育研究会外国語部会の研究部長を務めています。コロナ禍で市の研究大会はもとより、英語発表大会までもが中止となりました。近隣の先生方との実践交流の場が皆無になる中、研究部長として、今年度の研究の成果を残すためにどのような取組みができるのか思案に暮れました。コロナ禍でも市内の英語研究の灯を絶やしたくはない、その一念でした。
 外国語部会の全役員で会議を開き、考え抜いた結果、英語教材のデータベースを作成することにしました。Google上に共有ドライブを作成し、市内小中学校の英語の先生方やALTが自由に教材を出し入れできる環境を整備しました。共有ドライブ内には「小学校」「中学校」「ALT関連」「令和3年度NEW HOLIZON関連(R3旭川市教科書採択による)」などのフォルダがあり、パワーポイントなどを活用した文法指導教材や、問題プリント、単語指導用教材などを自由にフォルダ内から出し入れすることができます。著作権の関係もあるので、著作権に抵触する可能性のある画像等はすべて取り外していますが、フォルダ内に教材を提供した学校名、及び教員名が記載されているので、画像付きの教材が必要な場合でも、当該校の先生に直接相談することで入手も可能です。
 中学校では、新年度から新しい教科書に切り替わります。他校の実践をスピーディーに閲覧でき、自らの授業スタイルと融合させることで、市内の英語教員がさらなる進化を遂げること。それにより、旭川市内の英語教員のレベルアップにつながることが、我々の一番の目標です。その上で、先生方の教材準備の労苦を多少なりとも軽減し、昨今叫ばれている働き方改革の一助となることもあわせて期待しています。

6.おわりに ~英語教育にとってコロナが本当の敵なのか?~

 コロナにより、大きな変革が起きている英語教育界ですが、我々英語教員にとってコロナよりも大きな敵があると思います。それは「時代の変化」です。かつては英語を学ぶ原動力は「海外の方々と意志をやり取りするために不可欠なコミュニケーションツール」だったと思います。しかし時代は大きく変わりました。翻訳機の進化です。簡易な物ならテレビCMでも1万円以内、ポケトークなどの本格的な物でも2~3万円程度で手に入ります。たとえ英語がわからないまま海外旅行に行っても、翻訳機1台あれば意思のやりとり程度であれば不自由しない世の中になりました。アマゾンで海外のレビューを見ても日本語にある程度翻訳してくれます。近いうちにこれらの翻訳機能はより精度を高めることでしょう。
 世の中の進化が進めば、英語教師が英文法や単語を教える意味は薄れていくかもしれません(もちろん正しい言語を伝承するという意義は不変ではありますが)。
 そんな時代を迎える英語教師として、私は生徒たちに「あなたは他者に何を伝えたいの?」という発想を大切にしたいと思っています。どんなに機器が発達しても、伝えたい中身が何もなければ意味がありません。「時代の変化に抵抗感をもたず、嬉々としてその変化を受け止めることができる生徒」「色々なことに興味関心をもち、色々な人にそれを伝えたい、聞いてみたい、もっと知りたい!」そんな好奇心に満ちた生徒が、英語という国際言語を活用し、グローバルな視野で世界に羽ばたいていくこと。そんな壮大な夢を託すことができる素敵な職業、まさにそれが英語教員なのだと、改めて私は実感しています。

 

42                           パートナーに普段の生活をインタビューし,得た情報から「助動詞should」
                         を用いて,相手に助言をする活動。相手の生活実態に合わせた助言を,自ら
                                                              考えたことを英語にすることに重きを置いた

 コロナ渦だからこそ生み出せる変化。時代の変化に翻弄されるのではなく、我々自身が変革を生み出す千載一遇のチャンスが、まさに今この瞬間なのではないでしょうか。

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