国に先駆けて英語教育改革を推進してきた埼玉県さいたま市。
令和元年に文部科学省が実施した調査*では、CEFR A1レベル(英検3級)相当以上の英語力を有する中学3年生の割合が77パーセントと、都道府県・政令指定都市別で全国トップとなりました。どのようにして高い英語力を育んでいるのか、さいたま市の英語教育とこれからの展望について、教育長の細田眞由美先生にお聞きしました。
*令和元年度「英語教育実施状況調査」(文部科学省)公立中学校の調査結果
*CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)

1 市独自の9年間一貫カリキュラム「グローバル・スタディ」

さいたま市はかなり早い時期から英語教育に取り組んできました。平成19年度からは国際社会に活躍する人材育成のために「潤いの時間」という授業を設け、その中で全小学校において英会話の実践が始まりました。そして平成28年度からは国に先駆けた新しい英語教育「グローバル・スタディ」を実施しています。これは小学1年生から中学3年生までの9年間を一貫したカリキュラムのもとで、4技能をバランスよく学ぶ内容になっています。教材とそれに付随する教師用資料もオリジナルで制作しました。授業でアレンジして使えるDVDは現場の教員の大きな手助けとなっているようです。
9年間を通して目指しているのは、単なる語学習得だけではありません。英語という「窓」を通して、世界を見てほしい。世界を見る力をつけてほしい。そして、自分たちの思いや文化、考え方を発信する力をつけてほしいという願いを込めて、カリキュラムを構築しています。relay13_2さいたま市は、教育委員会の指導主事が教職員約6千人の授業を年に1度参観、指導する場を設けています。これは英語に限りません。このような活動を行っている自治体はほかにあまりないかもしれません。今年はコロナ禍で活動が難しい面もあったのですが、学校側から訪問要請がたくさんありました。学校と教育委員会、指導主事が厚い信頼関係で結ばれているのを実感しています。さいたま市の人口は約130万人、市立小・中学校の児童・生徒数は約10万人と大きな自治体です。しかし、大きすぎて小回りがきかないわけではなく、全体に目が届くサイズ感です。指導主事がそれぞれの教員の資質を理解し、指導力育成に取り組んでいます。

2 「非認知能力」の育成がキーとなる

 さいたま市の生徒たちにひとつ見られる傾向があります。英語力測定の試験もそうなのですが、それ以外の試験や考査においても、わからないからといって、テストを途中であきらめたり、解くのをやめてしまったりする生徒の割合が極めて少ないのです。

テストで80点を取った、英検3級に合格した、などと、客観的に測定できる能力を「認知能力」と言いますが、その結果に至るまでの下支えとなる姿勢、つまり「目標に向かって頑張る力」「粘り強さ」「集中力」など数値化できない心の能力、いわゆる「非認知能力」の重要性が昨今、見直されています。私たちが実践する日々のさまざまな教育活動のスキームの中には、非認知能力を育む活動が脈々と流れています。
とりわけ大切にしているのは、互いに認め合うことです。クラスの話し合い活動の中で、たとえつたないアイディアだったとしても「ここがよかったね」と学級の仲間で認め合い、努力した部分については教員も「よくやったね」と声掛けする。認め合う土壌は生徒たちの「自信」「意欲」といった非認知能力を高めていきます。それが難問にもあきらめないで最後までチャレンジする姿勢となり、結果として高い英語力にもつながっているだろうと考察しています。

3 テスト結果は授業力を向上させるためのものでもある

relay13_3 数年前から、中学1年生から中学3年生全員を対象に、年に1度「英検IBA」を受験する機会を設けています。本年度から小学6年生も対象となりました。この受験結果は「リーディング」「リスニング」などの分野ごとに点数化されて出てきます。
これにより教員が生徒個々の英語力を把握できるのはもちろんですが、教員が自らの授業力を改善するのにこれほど強力なエビデンスがあるでしょうか。「リーディングスキルが少し足りなかったな」「リスニングはかなりいいから、これからの授業も継続して進めていこう」など、授業改善にダイレクトに役立てることができ、大変ありがたく思っています。

これまでの教育は、ややもすると「勘、経験、根性」で教育を展開しようという部分がありました。確かに勘や経験はとても大事なものですし、ガッツだって必要です。しかしそこに科学的な側面が加われば、向かうところ敵なしだろうと思うのです。
データをしっかりと分析し、自分たちの授業展開はどうだったのかを振り返り、次の授業へと生かしていく。せっかく小学6年生から中学3年生までの児童・生徒全員が受験するのならば、個々の学力把握のみならず、教員自身の「授業へのフィードバック」という視点で数字を見なければもったいない。そこから強みと弱みを理解し、カリキュラムマネジメントに生かしていくべきです。科学的な観点、エビデンスによって授業力を向上させていくことは今後ますます不可欠になってくるだろうと思います。データは教員にとって、宝の山です。

4 これからの教育で考えていきたいこと

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 OECDが発表した学習到達度調査(PISA2018)で日本の15歳の読解力が全79の参加国・地域中15位と過去最低になった結果を見て、大変な事態になっていると感じました。この「読解力」は、私たちがこれまで考え、指導してきた「読解力」とはやや異なります。コンテンツを読み抜き、さまざまなデータをフェイクなのか価値あるものなのかを見極め比較検討し、その中から自分の意見を構築して発信できる力なども必要になります。日本のこれまでの教育は非常に素晴らしく、継承していくべき部分ももちろんありますが、刷新すべき点もあるのだろうと感じています。

戦後より学校現場は「マスでの授業」、つまり「1対多」という形で授業をしてきましたし、そういう教育を受けてみんな立派な社会人になってきました。しかしこれからは一人ひとりの持っている能力を最大に生かせるような「個別最適化のシステム」で教育活動を展開していかなければならないでしょう。さらに高度なことを学べる子にはそれを提供し、理解が進まない子には基礎力をつけさせるといった、個々に適した授業を展開できる力を教員もつけていかなければいけません。デジタルコンテンツを使いこなし、発達や個に合わせたベストミックスな授業を作るという点で、教師はもはや「教える」だけでなく「ファシリテーター」としての役割も担っていくことになるのかもしれません。

5 おわりに

令和2年は新型コロナウイルスの影響で学校が一時休校となり、非常に大変な経験をした年でした。GIGAスクール構想も時計の針を巻くように前倒しで進むことにもなりました。さいたま市では令和2年度末までにICTインフラを整え、それを使いこなす教員育成にも取り組んでいきます。1人1台の端末を保持することで、さまざまなことが一気に進む予感もしています。とはいえ、「言うは易し」の面もあるでしょうから、地道に研修や研究を積み重ねていきたいと思っています。
コロナ禍において「グローバル化はこのままでいいのか」という問いを私たち全員が突き付けられました。ますますボーダーレスになっていく世界で、どのように生きるのか。持続可能な社会のために、どのように貢献できるのか。未来を生きる子どもたちには英語という「窓」を通じて、課題意識をもった真のグローバル人材に育ってほしいと心から願っています。

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