2021年12月26日、全国の小・中・高等学校および教育委員会で英語教育に携わる先生方に向けたセミナーを開催し、ご参加のみなさまからパネルディスカッションで取り上げてほしいご質問を募集しました。今回はパネルディスカッションで取り上げられなかったご質問について、パネリストの池田先生・阿部先生にご回答いただき、記事にまとめました。
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ご回答いただいた先生 ※ご所属・肩書はセミナー開催当時のものです。
池田 周 先生(愛知県立大学 外国語学部 教授)に、小学校の先生からいただいたご質問にご回答いただきました。
小学校の先生からのご質問と池田先生からの回答
Q.評価・成績の付け方について
評価の基準を低く設定しがちです… どこまでがA評価か悩んでいます。
Answer

評価の基準を低く設定されがちということですが、A評価が多くなってしまうということでしょうか。
小学校ではスモールステップで各単元や授業の学習到達目標を設定して、児童の達成感や動機付けを高めることが大切です。少しずつ「できること」を重ねていくように指導と評価の計画を立てれば、より多くの児童が目標を達成できるということになります。そうなると、確かにA評価も増えることになります。基本的には、小学校段階では多くの児童がA評価をもらい、英語学習について自信と興味関心を維持したまま中学校へと進んでくれるのが理想的と考えます。
しかし評定のこともあり、全員がA評価とはいかない事情が学校や自治体によってあるのであれば、「学習到達目標を、それを満たす条件をそのまま満たして達成したのであればB評価」、「その条件を超えて、さらに表現や内容などの工夫やその様子が見られればA評価」と捉えてはどうでしょうか。もちろん、「指導と評価の一体化」を踏まえれば、児童も指導者も「ある学習到達目標に対して、評価がどのように行われるのか」(評価規準とその基準)について、条件などを具体的にイメージしながら共有できていることが必要です。
Q.授業の作り方・振り返り活動について
①形成的評価として、池田先生のお話にもあった学習者の学習状況の進捗をレビューするということがあったかと思います。例えば、どういった有効なレビューの方法があるかを教えて頂けますでしょうか。
② effective questioning を心がけてはいるつもりですが、実際は非常に難しいです。私は、小学校でALTに近い立場の外国語指導アシスタントというのをやっており(担任の先生との team-teaching でT2的な役割です)、all English です。open-ended question だと、子供達が英語で答えるのが難しいケースが多いように感じています。何か、工夫やコツなどあればご教示頂けますでしょうか。よろしくお願い致します。
Answer
①形成的評価として、学習者の学習状況を把握するためには、指導者側からの問いかけ、さらに児童自身の学習の振り返りを自分のことばで表現させる活動が重要です。これらはいずれも、児童のメタ認知を高め、それを表現させるということです。
また学習到達目標が明確で、毎時間の目標のポイント(前時までの目標と何がどのように違うのか)が明らかであれば、指導者も児童の学習状況の「見取り」が行いやすくなります。講演の中でも触れた Good-bye Challenge も、授業単位で言えば、形成的評価の1つです。
②「効果的な発問」で授業の流れを組み立てる場合、ご指摘のように、指導者がすべて英語で進めようとすると、発問の意図が適切に児童に理解されなかったり、児童が英語で反応できなかったりすることが予想されます。小学校での指導者の英語発話は、「短く、簡単な語句で、繰り返し、言い換えながら」が基本ですが、それでも児童にとって理解や表現が難しいようであれば、日本語で伝え、それを英語でも聞かせ、繰り返すように促してください。
ただやはり、特に小学校段階では、特に学びの整理整頓や振り返りのためにメタ認知を高めるような場面では、母語使用の方が効果的と考えます。だらだらとした日本語使用ではなく、特定の場面で、短く、指導者が語り聞かせるような形であれば、児童の理解を深めることにつながります。外国語アシスタントでこうした役割が難しいようであれば、ぜひ担任の先生に「学びのまとめ」を適宜組み込んでいただくと良さそうです。
Q.テスト作成について
パフォーマンステスト(対話形式)で効果的な方法を教えていただけますでしょうか。Agencyを踏まえたものを実践したいと思います!
Answer
パフォーマンステストが効果的であるかどうかは、そのパフォーマンステストで測定しようとする能力をきちんと明らかにされているかによります。つまり、学習到達目標が具体的に児童と指導者でイメージされ、それに沿ってパフォーマンステストに向けた指導がしっかりと行われ、児童も振り返りを通して学習調整をしながら学びに取り組み、その集大成としてパフォーマンステストが行われているか、さらにテスト結果を踏まえて事後指導が行われているかが大事なのです。その一連の流れこそが、児童にとっては student agency 、指導者にとっては teacher agency を育成し、発揮するものと言えます。
具体的なパフォーマンステストについての考え方も、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料 小学校 外国語・外国語活動」に掲載されています。
Q.教員の英語力向上について
教師自身の専門性を高めるために、オススメの本や映画などがもしあれば教えてほしいです。ちなみに私は語彙力を高めるために英字新聞を購読していますが、内容が難しい上に読むだけで時間がかかるため、英語が楽しいと感じられずに悩んでいます。
Answer
教師自身の専門性ということですが、英語力向上のための映画や書籍などはネット検索でも様々な観点からまとめられていますので、自分が続けられそうなものを選んで取り組んでみてください。自分が「楽しそう」と思えることが大切です。映画は英語のサブタイトル(字幕)を見ながら始めると、抵抗感が下がります。指導法については、小学校英語の領域はまだ教職課程でも新しいものですので、大学の教職課程でも用いられている書籍などから取り組んでみると、関連諸理論もまとめられていますので有効です。「小学校、英語教育」などのワードで検索してみてください。
British Council や Oxford University Press, Cambridge University Press などのウェブサイトに、英語学習者用のコンテンツや、英語教員のためのコンテンツがCEFRに合わせて提供されています。また、今ではウェブ上に、様々なレベルのオンライン英語学習サイトが存在していますので、そうしたものに取り組んでみられるのはいかがでしょうか。英字新聞も子ども向け、学生向けのものなど様々ありますので、自分がある程度「読みやすい」と思えるレベルのものをたくさん読むことから始めてみてください。
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