元号「令和」のローマ字つづり

 楽しみにしていた連休も終わり、子どもたちが学校に戻ってきました。
 ゴールデンウィークといえば、今の「令和」という元号が使われ始めたのもこの時期、2019年の5月1日だったことを思い出します。

 当時、「令和」という元号は外務省により“Beautiful Harmony”という趣旨であると説明され、英字表記は公文書に用いられるヘボン式ローマ字のつづりでREIWAとなることが発表されました。このつづりを初めて見た時、私は「英語母語話者はどのように発音するのだろう」と気になってしまいました。

 「舌先を口の中のどこにも付かず、最初に /w/ の音が入って「ゥレイゥワ」と唸り声のような響きになるのかな」、「EIの部分も /ei/ (エイ)ではなく /i:/ (イー) のように響いたりするのかな」などと想像したりしたものです。実際にこのつづりと発音が気になった方は他にもおられたようで、日本語の「れいわ」の発音から考えて、RではなくLから始まるLEIWAではないかという指摘も聞いたことがあります。こうした議論は、日本語のローマ字表記で用いられているアルファベットが英語のつづりに含まれるものと同じであっても、実際の音は異なるという例につながります。

 

日本語では /r/ と /l/ の音が区別されない

 英語教育コラム09_挿絵日本語の「ら行」の子音部分は、上の歯茎の裏側辺りに舌先を当て、それを弾いて出す「はじき音」です。「ら」の音を伸ばして「ら~」としても、直後に響いているのは「あ~」という母音の音です。

 一方、英語の /l/ の音は上の歯茎の裏側に舌先を当てて、その舌の側面から空気を逃がすようにして発音する「流音」と分類されます。英語の /r/ も同じく「流音」で、舌先を口の中でどこにも付けずに発音します。英語の発音指導の場面で、「/l/, /l/, …」「/r/, /r/, …」と音を短く区切って聞かせたり、繰り返させたりすることがあります。そのため、/l/ や /r/ は短い音なのかなと思ってしまいがちですが、実はこれらの子音は、「/l/ ~」「/r/ ~」と息を舌の横の方から少しずつ吐き出しながら伸ばすことのできる音です。

 

実際の指導で英語の音の出し方をどう示すか


 こうした日本語と異なる英語の発音を学校教育でどのように指導するかに関連して、2019年3月26日に文部科学省が公表した「2020年度から使用される小学校の教科書検定結果について」の新聞記事に、次のような記述がありました。

・・・ 初登場の英語では、「児童にとって理解し難い」などとする検定意見が相次いだ。日本人には難しいとされる「r」の発音について、『くちびるを前に出し、舌をまるめて』とした説明にも待ったがかかり、
『舌先をどこにもつけないで』に修正された。*1

 小学校学習指導要領(平成29年告示)「外国語」では、発音指導を「日本語との違いに留意しながら」(p.162) 行うとされていますので、類似した英語と日本語の音を聞き比べ、それらが「どのように違うか」を考える活動も授業で行われることが期待されています。この時、日本語を母語とする子どもは、生後半年頃まで母語では区別されない /r と /l/ のような音を弁別できるが、その感受性は生後1年頃までの間に失われるという研究があるように (Kuhl, et al. 2006)、単に音の聞き比べだけでは違いにはっきりと気づかない可能性があることへの配慮が必要です。音からのアプローチを優先して何度も聞かせることと同時に、1つ1つの英語の「音の出し方」を明確に言葉で説明し、それに基づいて子どもたちと一緒に聞いた音を真似て発音してみましょう。

 ここではもちろん、英語母語話者のような音を出せることを求めるのではなく、日本語とは違う音の出し方を体験してみることを大切にします。日常生活の中で英語を聞く機会が少ない子どもにとっては、「音を繰り返し聞いていれば自然に発音の仕方も習得できる」ことはなかなか期待できません。母語習得でも子どもの発音が曖昧な時に、身近な大人がゆっくりと大きく口を動かして音の出し方を見せたり、言葉で説明したりすることがあります。これと同じです。

 例えば私は“monkey”や“milk”などの「はじめの音 /m/」の発音を、「上下の唇をくっつけて少しだけ押し合う感じで、舌先はどこにも付けず、『ん~』と鼻から息を出すように」と説明します。一方“net”や“notebook”などの /n/ は、「唇を軽く開いて、舌先を上の歯茎の裏側に付けたまま、『ん~』」と表現します。

 英語の“open”という語を発音し終わった時、皆さんの舌先はどこにありますか? 日本語の「リボン」の「ン」のように、舌先が口の中でどこにも触れない状態になってはいませんか?

 日本語の「ん」は後ろに続く音によって発音の仕方が変わりますが、英語の /n/ は必ず舌先が上の歯茎の裏側にくっついています。日本語母語話者は、“open”のように語の終わりにくる /n/ を、舌先を口の中で浮かしたまま力を抜いて発音してしまうことが多いです。英語の /n/ では「舌先を上の歯の裏側に付ける!」と意識することが、発音をガラッと変えるヒントです。

 ただ、この「個々の音の発音の仕方を、子どもにも分かりやすいように言葉で説明する」ことがとても難しいのです。高学年児童が手にする小学校「外国語」の検定教科書の中でも、音の違いに気づかせるさまざまな工夫が取り入れられています。また、英語の発音のコツを集めた書籍は数多く出版されています。それぞれよく考えられた表現や語の例が盛り込まれており、実際にそれらに従って音を出して試してみるのも面白いものです。さらに文部科学省のホームページからダウンロードできる「小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック」にも「実習編5発音トレーニング」(pp.138-141)に母音や子音の発音のしかたが解説されています。これらは指導者に必要な専門知識としての解説ですが、その理解を基に実際の指導で発音のヒントとして提示することもできます。*2

 ぜひ日々の指導の中で、子どもたちと一緒に「この音はどうやったらうまく出せるかな」と考えてみてください。「何となく」の音の出し方を、「ことばで表して」意識してみましょう。音の違いのおもしろさに気づいたら、きっと聞くことだけでなく話すことにおいて、さらには聞き取って書いたり、文字を見て発音したりすることにおいても、英語の小さな音に意識が向くようになると期待できます。

 

*1
産経新聞
「女性の役割、「r」の発音、北海道の色 主な検定意見と修正内容 教科書検定」(2019年3月26日)
https://www.sankei.com/life/news/190326/lif1903260037-n1.html

*2
「小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック」文部科学省、2017年
https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2017/07/07/1387503_3.pdf

引用文献
Kuhl, P. K., Stevens, E., Hayashi, A., Deguchi, T., Kiritani, S., & Iverson, P. (2006). Infants show a facilitation effect for native language phonetic perception between 6 and 12 months. Developmental Science, 9, 13–21.



>「英語教育コラム」一覧はこちら

<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。

 

この記事をシェアする

関連する記事