前回は、平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査「中学校 英語」の「書くこと」の問題を例として、せっかくまとまった量の英語を書いても、「コミュニケーションに支障をきたすような誤り」が含まれているために自分の思いや考えが相手に適切に伝わらない事例について考えました。「流暢さの中にも正確さを」という意識をもち、学習の段階や目的によってそれらのバランスをとりながら指導を行うことが大切です。具体的には、小学校から中学校の英語の授業においてリキャスト(recast)を取り入れ、児童生徒の英語表現への意識を緩やかに高める工夫について触れました。

 この流暢さと正確さに関連して、特に「話すこと」において、「流暢に話したいが、英語の表現がなかなか出てこない」、「伝えたいことを表現するのに時間がかかる」という声をよく聞きます。細かな表現上の正確さにとらわれすぎることも原因かもしれませんが、誤りを恐れてしまうことだけでなく、そもそも英語で即興的なやり取りの経験が少ないことも影響しているように思われます。

 今回はこの点について、前回と同様に平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査「中学校 英語」から、「話すこと [やり取り]」と「話すこと [発表]」の問題を取り上げて考えてみたいと思います。これらはパソコンやタブレットを用いて実施されました。

「即興でやり取りをする」問題

 
 最初に「即興でやり取りをする」問題を見てみましょう。

-----------------------------------------------------------
【大問2】

あなたは、ユイコとアラン先生と話しています。まず、ユイコとアラン先生が、2人で話している場面から始まります。そのあと、あなたが尋ねられたら、2人のやり取りの内容を踏まえて、会話が続いていくように英語で応じてください。解答時間は20秒です。

〔ユイコとアラン先生のやり取り〕
Allan: Look at this picture of my family. This is my favorite picture.
Yuiko: Nice! Who is she?
Allan: Oh, she is my mother, Nancy. And he is my brother, Tom. He can cook very well.
Yuiko: I see. What kind of work does your mother do?
Allan: She is a teacher.
(画面を見ている中学生の方に向かって)Do you have any other questions about them?
-----------------------------------------------------------
(「平成31年度 全国学力・学習状況調査 調査問題 中学校 第3学年 英語」(国立教育政策研究所)より)
https://www.nier.go.jp/19chousa/pdf/19mondai_chuu_eigo.pdf 
 
 これはパソコンなどの画面を見ながら、会話する2人のやり取りに加わり、即興で応じる問題です。やり取りでは、まずアラン先生が母親のナンシーと兄のトムが料理をしている写真を見せながら2人をユイコに紹介します。その後、ユイコからの質問に答えたアラン先生は、画面を見ているあなた(中学生)に向かって “Do you have any other questions about them?”((写真の)2人について何か他に質問ある?)とアラン先生が「あなた」に尋ねます。アラン先生の写真に写る家族について、ユイコと同じ質問とならないよう、それまでの会話の内容を踏まえながら質問をします。この場合、アラン先生の質問に “No, I don’t.”(質問はありません)と答えることも表現上は可能かもしれません。しかし積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を目指す中で、何とか会話を継続させようと努力する姿が期待されているのです。

この問題の採点の視点は以下の2つです:
(視点A)やり取りを踏まえた質問をしている
(視点B)正しく伝わる英語で話している

 そして「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査 報告書調査報告書」(以下「報告書」)※ (p. 77) には、次のような正答例が示されています。
https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku/report/data/19meng.pdf

・What kind of food does your brother cook?
・What subject does your mother teach?

 全国の中学生の正答率は10.5%であり、即興でやり取りをすることへの課題が指摘されました。
 

「まとまりのある内容を話す」問題


続いて、これは与えられたテーマについて考えを整理し、「まとまりのある内容を話す」問題を見てみましょう。
 
-----------------------------------------------------------

【大問3】
あなたの学校で、海外のあるテレビ局が「世界の子供たちの夢」というテーマで番組を収録しています。画面にある話してほしい内容の①、②について、英語で話してください。1分間、内容を考えたあと、30秒で話します。それでは、内容を考えましょう。

話してほしい内容(①、②のどちらも話してください)
①あなたの将来の夢、または、やってみたいこと。
②その実現のために頑張っていること、やるべきこと。

〔30秒後〕
それでは,30秒で話してください。
-----------------------------------------------------------
(「平成31年度 全国学力・学習状況調査 調査問題 中学校 第3学年 英語」(国立教育政策研究所)より)
https://www.nier.go.jp/19chousa/pdf/19mondai_chuu_eigo.pdf

この問題の正答の条件は、以下の2つです:
① 将来の夢、または、将来やってみたいことについて話している。
② その実現のために頑張っていること、やるべきことについて話している。

そして「報告書」(p.82) には、次のような正答例が示されています。

I want to be a farmer and grow delicious vegetables. My grandfather is a farmer, so I will help him and learn many things from him.

正答率は45.8%で、前出の「即興的でやり取りをする」問題の正答率と大きく差が見られました。しかも、この問題が全てのスピーキング問題の中で、最も無解答率(沈黙など)が低いものでした。

 

これらの結果が示すこと

 実は2つ目の例のように「自分の夢について話す」ことは、小学校「外国語」でも多く扱われる言語活動であり、中学校に入ってからも自己紹介やwant to ~ の表現などを学ぶ際などに繰り返し行われてきています。こうしたことからも、与えられたテーマについて少し時間をかけて自分の考えを整理し、まとめたことを話す(prepared speech)ほうが、その場で尋ねられたテーマについて即興的に意見を述べること(spontaneous speech)よりも、生徒にとっては負荷が低いことがうかがえます。


 以上の2つの問題例から言えるのは、「日々の授業で行われる言語活動で必要とされない資質・能力は、自然には育ちにくい」ということです。すなわち、児童生徒の即興的にやり取りする力を伸ばしたければ、授業の中で「即興的に話すことが求められる」活動や場面を繰り返し設定せねばなりません。

 いつも下準備してまとめたことだけを発表するだけでは、スピーキングの力は伸びません。「即興的なやり取り」を実際に行うことが必要です。英語の授業に行う教師の支援においても同じです。もし児童や生徒が英語で何かをつぶやいたら、「Oh, you ~.(話した英語を繰り返す)Good!」など会話を発展させるようにリアクションを返し、できればさらに内容を深める簡単な質問(So, did you like it? / How did you do it? / What do you think? / Why? など)を続けます。意図的な語り掛かけ、問い掛けによって意見や考えを「引き出す」ことが大切です。「報告書」(p. 80) には、教師が実際に会話を継続・発展させる方略(ストラテジー)を用いてモデルを見せることの重要性も指摘されています。こうして「もっと英語で伝えたいな」という気持ちを高め、児童生徒が自律的、自発的に英語学習に取り組みたくなるように促していきましょう。



>「英語教育コラム」一覧はこちら

<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。

この記事をシェアする

関連する記事