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2021.06.15 教育情報 英語教育コラム

【第1回】英語教育の小中接続に向け小・中学校両方の先生方に知っていただきたいこと:小学校の「学び」の特徴

 昨年4月に小学校で新しい学習指導要領(平成29年告示)が全面実施されたのに続き、この4月から中学校でも新たな教育課程が始まりました。初等・中等教育における英語学習期間は、これまで中学校と高等学校それぞれ3年、計6年間でしたが、これに小学校「外国語活動」と「外国語」が加わり、計10年間というまとまった期間になりました。小・中・高等学校を通じた外国語教育改革を実現するためにも、新たに始まった小学校英語教育について、中・高等学校の先生方も含めて共通理解を築くことが必要です。
今回は、新たな教育課程における小学校「外国語活動」「外国語」の学びの特徴についてお伝えします。

新学習指導要領における小学校英語教育

 学習指導要領は、全国のどの地域で教育を受けても一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省により、学校教育法等に基づいて小学校・中学校・高等学校等ごとに、それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容を定めたものです(※文部科学省HP参照)。

 これを基準として、各学校で教育目的や目標を達成するために、授業時数などを踏まえた総合的な教育計画である「教育課程」を編成します。学習指導要領に相当するものをNational Curriculumと表す国もありますが、日本ではCourse of Studyという英語を用いています。

 学習指導要領は約10年ごとに改訂されていますが、平成23年度に全面実施された1つ前の小学校学習指導要領により、高学年に「外国語活動」が導入されました。これは教科ではありませんが、英語を扱うことを原則とし、週1回、年間35コマ、音声(聞くこと・話すこと)を通して児童を英語に慣れ親しませることが求められていました。

 それに次ぐ今回の小学校学習指導要領では、中学年に「外国語活動」が導入され、高学年では「外国語」で教科としての英語教育が始まり、一定の学習内容の定着を目指すことになりました。中学校「外国語」の「学習内容を前倒し」するという間違ったイメージが強かったのでしょうか、新学習指導要領の告示当初は「小5から文法」、「読み書き指導も始まる」などという見出しが躍ったものです。

 しかし、英語が高学年で教科となったのは、「4技能(聞く・話す・読む・書く)を体系的に指導する」ためであり、中学校でこれまで行われてきたような文法規則や読み書きの指導は求められていません。むしろ小学校では、子どもの「英語学習への興味・関心」を高めながら、児童の発達段階に応じて「音声から文字へ」という自然な英語への「慣れ親しみ」や「気付き」を大切にします。

 英語は「ことば」ですので、同じ語句や表現を何度も繰り返し使いながら習得していきます。例えば “I want to be a scientist.” のように「なりたい職業を伝える」ための表現は、小学校と中学校両方の教科書で扱われています。ですが小学校と中学校では、同じ表現を言語活動で取り上げるにしても、その扱い方が違うのです。

 さらに新課程の英語教育では、学習全体を下支えする「学びに向かう力・人間性」を育成しながら、英語の基本的な語句や簡単な表現について「知識、及び技能」を身に付けるだけではなく、「思考力、判断力、表現力等」を働かせ、「目的、場面、状況等」に応じて適切に英語を使えるようになることを目指します。

小学校英語教育で目指す「学び」の特徴

英語教育コラム_挿絵_01

 

 こうした「新たな学びの特徴」は、実際の小学校英語教育で用いられる教材に現れています。今回は、の新教材から児童たちが学校でどのような活動を通して英語を学ぶのかを見てみたいと思います。

 

 

3年生「外国語活動」の例

例えば、小学校3年生用教材Let’s Try! 1のUnit 4“I like blue .”を見てみます。“I like ~.” “I don’t like ~.” “Do you like ~?”といった表現を使って「好きな色、食べ物、スポーツなどを英語で尋ねたり伝えたりできるようになる」ことを学習到達目標とします。

 まず指導者が色カードを示して“I like pink and purple, but I don’t like blue.” などと言い、好き嫌いを表情やジェスチャーで伝えながら基本表現を導入します。「Iが主語で、likeが動詞で・・・」と説明したり、最初から黒板に文字で単語を示したりはしません。あくまでも “I like ~.” の「~」の部分に「自分の好きなもの」、“I don’t like ~.”では「好きではないもの」を続けるという「表現のまとまり」として、音声を繰り返し聞いたり言ったりして慣れ親しませます。

 語句や表現を導入したら、Activity 1「にじに色をぬって、あなたのにじをかんせいさせよう」という活動に取り組みます。これは虹の絵に色を塗り、完成した虹を“I like ~.”の表現を使って英語で友だちに紹介するものです 。

 実はこの活動では「あなたの虹を完成させる」、すなわち「自分だけの虹とするために、自分の好きな色で自由に塗るんだ」という目的設定が非常に重要です。虹を実際の色に合わせて塗り、「自分の好きな色ではない」けれど“I like ~.”と言いながら紹介するのでは、「本当の自分の気持ち」を伝えることにはなりません。「自分の好きな色で塗られている」からこそ、例えば “I like pink. I like purple. I like orange. I like yellow.”と言いながら自分だけの虹を紹介する、「意味ある活動」となるのです。

5年生「外国語」の例

 高学年「外国語」については、新学習指導要領の移行期間に用いられていた5年生用教材 We Can! 1の Unit 2 “When is your birthday ?”を取り上げます。今年度から使用されている「外国語」検定教科書の多くに、これと同じような単元が含まれています。学習到達目標は、単元名が示すように「誕生日を尋ねたり伝えたりできるようになる」ことです。

 これまでの小学校や中学校の授業では、“When is your birthday?”と“My birthday is ….” の表現を導入したら、「ではみんな教室内を歩き回って、友だちに英語で誕生日を尋ねてみましょう。何人に尋ねることができるかな?」といった対話練習が多く行われてきました。しかし同じクラスだからこそ、既に互いの誕生日を知っているかもしれない中で、なぜまた英語で尋ねるのかという「目的」が明確ではありません。

 そこでこの単元では、既習表現の“What do you want?”とうまく組み合わせ、かつ高学年では「書くこと」の領域も扱うため、「友だちに、その人がプレゼントに欲しいもののイラストとメッセージを添えたバースデーカードを贈る」という言語活動を行います。すなわち、「バースデーカードを贈りたい人がいる」という状況設定のもとで、まずメッセージに書き添えるために誕生日を尋ね、さらに「誕生日に欲しいもの」を“What do you want for your birthday?”を用いて尋ねるのです。

 もし友だちから、“I want a T-shirt.”という答えが返ってきたら、カードにどのようなTシャツのイラストを描くかを絞るために“What color do you like?”“What shape do you like?”などと色やデザインの好みを詳細に聞き取ります。
そして“Happy Birthday!”というメッセージや誕生日の日付を「例を見ながら」書き写し、最後に友だちと自分の名前をローマ字で書いてカードを完成させます。それを“This is for you.”と言いながら、心を込めて相手に渡すという流れです。

 このように小学校では、その単元で学ぶ表現や語句を機械的に練習して「知識、及び技能」を身に付けることだけを目指しているのではありません。それまでに学んだことを繰り返し活用しながら、「目的、場面、状況等」に応じて「思考力、判断力、表現力等」を働かせる言語活動が広く行われています。学校の授業の中でも「実際に言語が使用される場面」を通して英語を学んでいるのです。その際、新出語句や表現も、「まとまった表現」として慣れ親しみ、表現することを重視しています。

 英語教育における小中接続の実現に向け、中学校の先生方には特に、小学校ならではの「学び」を理解した上で、それをまずは引き継ぎ、次第に中学校の学びへと移行していくことが大切です。

☆ 平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)

☆Let’s Try! 1やWe Can! 1 についてはこちら
>新学習指導要領に対応した小学校外国語教育新教材について(文部科学省)

<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。
英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。
小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。文部科学省「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討委員会」委員を努めた。生後5ヶ月の愛猫モカのやんちゃぶりと格闘する日々。

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