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2022.02.03 教育情報 英語教育コラム

【第3回】「自分の学びを評価できる」力の育成-assessment as learning(学びとしての評価)

 入学試験シーズンが始まり、学校でもそろそろ1年間の学びの総括が行われる時期となりました。
 「試験」や「テスト」は、ある時点で学習者の知識・技能の習得状況を「測定」するための手段です。測定された習得状況は、数値やレベルなど客観的な情報・データとして提供されます。入試ではそれを合否の判断材料として用いるわけですが、教育ではこの情報を様々な観点から解釈して、目標や内容、方法、成果を「評価」するために用います。

今回はこの「評価」について取り上げます。

教育における「評価」

「評価」は、「診断的評価」、「総括的評価」、および「形成的評価」の3つに大きく分類されます。

診断的評価
指導前にレディネス(学習に向け心身や環境の準備が整っている状態)など学習者の状況を把握し、学習内容や計画、方法に反映することで成果を最大限に高めることを意図して実施されるもの。学力テスト、適性テストなど。

総括的評価
一定期間の学習後に習得状況を総合的に把握し、学習成果の検証と総括を目指して行われるもの。

形成的評価:
学習過程の中で習得状況を把握し、その後の学びや指導の改善に生かすために行われるもの。

 これら3つの評価のうち、総括的評価は、「学習(したこと)の評価(assessment of learning)」であると言えます。一方、形成的評価は、ある学習者について、学びがまだ継続している段階で「何ができるか」、「何をどのように理解しているか」、「以前からどのように進歩したか」、「目標にどれだけ達していないのか」、「どこに困難や混乱があるのか」などの詳細な情報を得るためのものです。指導者はそれらの情報を指導改善に生かすだけでなく、学習者にフィードバックして、その後の学びの中で「何を、どのように学んでいけば良いのか」について助言を与えるために活用します。それゆえ形成的評価は、「学習のための評価(assessment for learning)」とも言われています。

「自分の学びを評価できる力」を育てる

 この「学習のための評価」のうち、「学習者としての自分自身」を振り返ることを通して、次第に「どのように学ぶか」を意識するようになるという側面を強調して、「評価することそのものが学習である」、すなわち「学習としての評価(assessment as learning)」という用語が生まれています。学習者として自分が今、「到達目標に対してどのような習得状況にあるのか」を客観的に把握することができる「メタ認知」能力を高めることを目指す、ということです。
 
 実はこのように「自分で自分の学びを振り返り、評価し、次の学びへと繋げる」ことは、生涯に渡って学び続ける「自律した」学習者に必要な能力とされています。英語力を維持し高めるためには、家庭や学校教育を超えて常に学び続けていかねばなりません。将来、仕事で英語の必要性が生じて学習への動機づけが高まったときに、「英語の学び方」を身に付けていれば自分で学習を進めることができます。英語力は地道な学習努力によって習得されるものです。日常生活における英語のインプットがまだまだ限られる日本の環境では、まずは「自律した」学習者となって「潜在力」を蓄積し、いざ英語使用を求められる環境になった際に学習成果を発揮できる(「顕在力」となる)ことを期待したいものです。

01_英語教育コラムスライド 02_英語教育コラムスライド

 少し話が逸れましたが、「学習のための評価(assessment for learning)」を行うために指導者にとって必要な力について、英語教育オンラインセミナー(日本英語検定協会主催、2021年12月26日)の基調講演で上のようなスライドを用いてお話させていただきました。

 ここで引用した “Assessment for learning:10 principles. Research-based principles to guide classroom practice Assessment for Learning” (Broadfoot et al., 2002) *1のリーフレットによると、「学習のための評価」は、指導者にとって主要な専門的技能です。指導計画が効果的に行われていれば「学習のための評価」もきちんと組み込まれているはずです。そして「学習者がどのように学ぶか」に焦点を当てながら行われる授業実践の中心となるものです。

 この「学習のための評価」は、学習者に心理的影響を及ぼし、動機付けにも関わることから、指導者には学習者の心的側面に敏感で、建設的なフィードバックを与えることが重視されます。さらに、「学習のための評価」を実現するには、「指導と評価の一体化」が十分に確立されていなくてはなりません。すなわち、指導者と学習者両方が「どのように学ぶか」、「学びがどのように深まるか」、「どのように学びが評価されるか」を十分理解した上で学習を進め、学習到達目標に照らし合わせて学習者自身も自己評価を行い、「何ができるようになったのか」をきちんと認識しながら学びを調整し、継続していくことにもつながります。

 このような「学習としての評価」を行う能力のある学習者、すなわち「評価者でもある学習者」の育成には、指導者や学習仲間との関わり合いや支援が必要です。より具体的には、「学習のための評価」を行うための情報を、指導者は2つめのスライド資料にあるような支援を通して得ていくことになります。学習者の活動を十分に観察し、巧みな発問によって学びを深め、学びの振り返りも促すことが大切です。特に学習到達目標の設定と、指導者と学習者での共有、振り返り、指導者による指導計画の修正や学習者による学習調整、というPDCAサイクルと深く関係します。評価結果が、振り返りのための情報やデータとなり、それがその後の学習のあり方に反映されるのです。

 自分の学びを自分で評価し、必要な学びやその方法が認識できるようになれば、その後は学習者自身の力で英語力を伸ばしていけるようになります。指導者が一生懸命、学習者に知識を教え込もうとしても、それには限界があります。むしろ「学び方」を習得させ、「自律的に学びを継続する力」を身に付けさせること。これは英語だけでなく、あらゆる分野の学びに通じると言えそうです。



*1
https://www.researchgate.net/publication/271849158_Assessment_for_Learning_10_Principles_Research-based_principles_to_guide_classroom_practice_Assessment_for_Learning

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<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。

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