小・中#6-2:【今回はちょっと理論編】Small Talk における指導者のフィードバック (後)
児童生徒が、「既習の語句や表現を最大限に活用しながら、英語で対話を続けられるようになる」ために行われる言語活動としての Small Talk。前回から、この活動において指導者が果たすべき役割について考えています。
「対話の参加者としてのモデル」である指導者は、「対話を始め」たり、相手が話した語や文を繰り返して自身の「理解を確認」したり、相手に「感想を述べ」て自身が理解していることを伝えたり、聞き取れなかった場合は「確認」したり、対話の内容を詳細にするために「質問を続け」たり、最後は「対話を終わらせ」たりといった様々な役割を果たします。これらの指導においては、ただ言葉で説明して知識を覚えさせるだけでは、実際のコミュニケーション場面で生かせるようにはなりません。Small Talk という言語活動の中で、児童生徒が実際にそれらの役割を果たす経験を積み重ねることにより、身に付いていくものです。
前回のお話で、『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』(文部科学省, 2017, p. 85)より、小学5年生の「過去を表す表現」の学習に続く導入例を参照しました。以下はその一部です。
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: Amusement park. Fun!
T: Oh, you went to the amusement park, and it was fun. That’s nice. …
ここで以下のように説明を加えました。
この指導者の発話は、「How about you, S1? (Did you enjoy your summer vacation?)」に対する S1 の答えが「Amusement park. Fun!」という単語レベルのものであったことから、それをきちんとした文の形(You [ I ] went to the amusement park, and it was fun.)で言い直して聞かせている(できればさらに S1 自身に言わせたい)ということです。これが S1 の学びを支援する、指導者からのフィードバックのひとつの形です。
すなわち、学習到達目標から描かれる児童の「目指す姿」に向かって、それが達成できるように導く支援を行うことが大切なのです。この例は、「文」の形で伝えられるようになることが、小学校の外国語教育で育成を目指す「知識及び技能」のひとつの側面であることを踏まえた支援と言えます。
今回は、この導入場面を用いて、児童の様々な反応(以下◇)にどのような言葉による支援(以下◆)が可能かを考えてみたいと思います。
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: [◇ ….]
T: [◆ ….]
上の例は、児童が問いかけに対して「単語レベルで答えたもの」です。これを含め、ここでは以下①~⑤のような児童の反応パターンを設定します。
【① 単語レベルで答えたもの】
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: Amusement park. Fun!
これについて、元の導入例に示されたのは「文の形で言い直して聞かせる」ものでした。
◆ Oh, you went to the amusement park, and it was fun. That’s nice.
では、こちらの反応はどうでしょうか。
◆ Oh, amusement park. Nice! S1, I WENT TO Tokyo. So, you …? (You went …? You went to …?)
これは児童に何とか自力で「I went to the amusement park.」を引き出して欲しいと願いながら試みるものです。意味的には途中で「先生は東京に行ったよ」と前の話に引き戻していることになるのですが、日々の授業「文の形で言うことを大切にする」雰囲気が生まれているクラスであれば、児童も何が期待されているのか気づきます。
【② 沈黙してしまったもの】
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: ….
児童が沈黙してしまった場合、「質問が聞きとれなかった、あるいは理解できなかった」のか、「質問は理解したけれど、何と答えればよいのか分からない」などの理由が考えられます。またこの導入例では、直前の指導者の問いかけが、明確な「行った場所を尋ねる」疑問文ではなく「How about you, S1?」となっています。このため、冒頭の「Did you enjoy your summer vacation?」の問いかけと混同することも推測されます。
そのため、もう一度「行った場所を尋ねられている」ことを確認してみます。
◆ I went to Tokyo during summer vacation. How about you? Where did you go?
◆ Did you go anywhere in summer?
【③ Yes / No で答えたもの】
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: Yes [No] ….
「Yes」という返答に対しては、「どこかに行ったよ」という意味が込められていると理解して、「どこに行ったか」の部分を尋ねる問いを続けます。
◆ Oh, you went somewhere in summer. Where was it? Where did you go? How was it?
◆ Oh, where did you go? The sea? Amusement park? Zoo? Mountains?
また冒頭の「Did you enjoy your summer vacation?」の問いかけと混同したと思われる場合には、以下のように続けることもできそうです。
◆ You enjoyed your summer vacation. Good! Where did you go?
一方、「No」と児童が答えた場合、筆者自身はあまり「You didn’t go anywhere?」と続けたくありません。児童には様々な夏休みの過ごし方があるからです。「特別な場所でなくてもいいんだよ」と気づかせるために、以下のように言ってみると思います。
◆ Well, how about XYZ park? Did you go shopping? Did you go … (地域の施設など)?
◆ No? So, you had a good time at home. That’s nice.
このように考えてみると、「Where did you go during summer vacation [in summer]?」はよく用いられる問いかけですが、指導者の示す返答モデルでは「身近な場所」に言及しておくと、児童には答えやすいかもしれません。
【④ 日本語で答えたもの】
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: XYZ 遊園地 ….
「行った場所が英語で表せない」という状況は、よくあることと想像できます。この場合、まずはクラスのほかの児童たちと一緒に考えてみます。
◆ XYZ 遊園地? I see. What’s 遊園地 in English, everyone? [Does anyone know 遊園地 in English? / How do you say 遊園地 in English, everyone?]
あるいは指導者のリアクションにその英語表現を入れてみます。この場合は、S1 にもリピートを促して、実際にその英語を言ってみるようにしましょう。
◆ Oh, you went to XYZ amusement park. I like the amusement park very much. How was it?
【⑤ 英文が一部正確ではないもの】
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: I went the mountains. I enjoyed camp.
指導者に「児童が伝えたいこと」が分かれば、基本的にはその誤りの訂正は行いません。ただし、きちんと文を整えて聞かせておきたいところです。恐らく発音も少しゆっくり、明確にしていくと思われます。
◆ You went to the mountains and (you) enjoyed camping! Nice. What did you eat there?
あるいは、S1 なら少し注意を喚起すれば、自分で文を修正できると思われる場合は、その S1 の返答をゆっくり繰り返してみます。
◆ I went …?
さらに、指導者の側から正確な文を提示して聞かせ、S1 や他の児童が気づくことを期待する続け方もあります。
◆ You went …? You went TO the mountains? Wow! And you enjoyed cam…? Yes, CAMPING!
児童が一生懸命に考えて発した英語をしっかりと聞き、その表現を通して「伝えようとしていること」や、その返答が出た背景、理由などを想像し理解すること。これが適切なフィードバックにつながります。だからこそ、やり取りはゆっくりで構いません。
同時に、まだ既習の語句や表現の限られた小学校高学年から中学校はじめの時期だからこそ、指導者の問いかけに対する児童生徒の返答(内容ではなく、表現の形)がある程度予測できます。
Small Talk の指導を組み立てる時には、「既習表現を使って言えそうな内容」をあらかじめ想定したり、「日本語で答えた場合」や「沈黙してしまった場合」の対応を考えておくなど、事前の準備をしておくことで指導者自身が余裕をもって適切な支援を行うことができるようになります。