小・中#6-1:【今回はちょっと理論編】Small Talk における指導者のフィードバック (前)
突然ですが、以下の先生(T1, T2)と子どもたち(Ss)のやり取りを読んで、どのような場面を思い浮かべますか?
T1 & T2: Hello, everyone!
Ss: Hello, XXX sensei and YYY sensei!
T1: How are you today?
Ss: I’m fine. Thank you. And you?
T1: I’m fine.
T2: I’m fine, too.
T1: Good. What’s the date today?
Ss: It’s May 29th.
T1: OK. What day is it today?
Ss: It’s Friday.
T1: What time is it?
Ss: It’s 10:25.
T1: How’s the weather?
Ss: It’s fine.
T1: Great! Let’s start today’s lesson!
小学校や中学校の「英語の授業」の始まりの部分を思い浮かべられた方が多いのではないでしょうか。
実は、こうしたパターン化したやり取りを、Small Talk とは言いません。
質問の順番も変わらず、毎回の授業で同じやり取りが続く場合、児童生徒が実際の先生の発話を意識して聞くことなく、 「日付の次は曜日、その次は天気」と記憶をたどりながら、質問に何となく答えている様子がうかがえます。どれか1つの質問をとばして言ってしまった時に、質問と答えが噛み合わなかった経験をされた先生もいらっしゃると思います。
もちろん授業始めのルーティンとして、既習表現を用いたやり取りを行うことは、学習初期段階で表現の定着のために有効です。しかし「英語で対話」を行う時には、常に「児童生徒と先生が、互いの発話の意味をきちんと理解しているか」が大切です。
上に挙げたようなやり取りでは、英語の授業のある曜日が決まっていれば、授業のない日の曜日を言う機会が減るかもしれません。また、授業時間割が同じであれば、「What time is it now?」と尋ねても、同じような時刻が返ってきます。こうした場合は、以下のように質問に変化をつけたりしながら、定着を確認していきたいものです。
What day was it yesterday?
What day is it tomorrow?
What was the date yesterday?
What’s the date tomorrow?
What time did you get up this morning?
また少なくとも、「いつも同じ順番」で質問するのではなく、児童生徒の視線が時計に向いていたら天気について尋ねてみるなど、「しっかり質問を聞こう」という意識を高める仕掛けをしてみましょう。
【Small Talk の目的】
上で触れたルーティン的なやり取りは、機械的練習(=ドリル活動)に近いものと言えます。新たな語句や表現を学んだ直後は、ドリル活動でそれらの表現を何度も聞いたり言ったりすることにより「音声で慣れ親しむ」ことも大事と考えられます。しかしある程度慣れ親しんだ段階になれば、今度は「意味のあるやり取り」の中で、それらの語句や表現を使ってみる経験が必要です。
そのための活動のひとつが、「話すこと [やり取り]」「話すこと [発表]」の領域の言語活動である Small Talk です。『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』(文部科学省, 2017, p. 84)には、Small Talk の主な目的として、以下2つが述べられています:
(1) 既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図る
(2) 対話を続けるための基本的な表現の定着を図る
このうち、 (2) の「対話を続けるための基本的な表現」として、以下の6点が例示されています。
『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』をもとに作成
(https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1387503.htm)
すなわち Small Talk は、児童生徒が既に学習した語句や表現を最大限に活用しながら、英語で対話を続けられるようにするために行う活動です。この言語活動が、児童と指導者、あるいは児童同士で行われるなかで、指導者が果たすべき役割は「対話の参加者としてのモデルを見せる」ことです。特に、自分の思いや考えを(一方的に)伝えることだけでなく、相手の発話をどのように聞き、反応すればよいのかを実際に児童に(気づきを促す形で)示していくことが大切です。
【Small Talk における指導者のフィードバック】
さらに、Small Talk で指導者が見せるモデルは、児童の対話の相手としての反応であるだけでなく、児童の学びを支援するフィードバックとしても機能せねばなりません。『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』(文部科学省, 2017, p. 85)には、小学5年生の過去を表す表現の学習に続く導入例として、以下のやり取りが紹介されています。
〈図表2〉 Small Talk 導入例 [第3時](p. 85)
T: Did you enjoy your summer vacation? I went to Tokyo. It was fun!
How about you, S1?
S1: Amusement park. Fun!
T: ① Oh, you went to the amusement park, and it was fun. That’s nice. How about you, S2?
S2: I went to Okinawa. It was exciting!
T: ② You went to Okinawa. That’s good. OK, please talk about your summer vacation.
上の太字(①、②)の部分は、「対話を続けるための基本的な表現」のうち 「繰り返し」 に該当します。相手が話したことについて、主語 I の部分を you に変え、残りをそのまま繰り返すことで「あなたが今話したことは、こういうことですね」と確認できます。また相手の話に驚いたり、相手の話を踏まえて自分の考えを述べる場合などは、自然に相手が話したことを繰り返してしまうでしょう。その一方で、自分が言った表現を直後に毎回繰り返されるのは、自然なやり取りとは感じられない場合があるかもしれません。
ただ上の例①で注目したいことがあります。すなわち、この指導者の発話は、「How about you, S1? (Did you enjoy your summer vacation?)」に対する S1 の答えが「Amusement park. Fun!」という単語レベルのものであったことから、それをきちんとした文の形(You [ I ] went to the amusement park, and it was fun.)で言い直して聞かせている(できればさらに S1 自身に言わたい)ということです。これが S1 の学びを支援する、指導者からのフィードバックのひとつの形です。
このように、楽しく児童と英語で対話を行う中にも、指導者としてどのように児童の発言に反応するか、どのようにフィードバックを行うかは、児童の発話と学習状況などを見極めながら行う大切なものです。 次回はこの Small Talk における指導者のフィードバックについて、さらに考えてみたいと思います。