【第21回】絵本の読み聞かせにひと工夫を
小学校英語教育ではとても人気の高い活動のひとつである絵本の読み聞かせ。
目を輝かせながら一生懸命に聞いて反応している様子を見ると、英語でもちゃんと内容をたどっているんだなと感じます。
絵本には一般に、リズム良く同じフレーズが繰り返されて耳に馴染みやすく、色彩豊かなイラストによって内容も分かりやすいという特徴があります。そのため、楽しむだけでなく、言語学習にも有効な教材です。
この英語の絵本の読み聞かせを、皆さんはどのように始めていらっしゃいますか?
「読み聞かせ」のいろいろな形
以前、大学の教職課程の授業で英語絵本の読み聞かせを扱いました。読み聞かせの目的や方法などについて詳細に解説する前に、日本語の『三匹の子ぶた』と英語の “The Three Little Pigs” の絵本を用意し、それぞれの読み聞かせを実演してもらいました。すると学生たちは、言語に関わらず、登場人物になりきって感情を込め、顔の表情やジェスチャーを巧みに取り入れながら表現豊かに物語を音読してくれました。
ここで、次のような問い掛けをしました。「それは何のための読み聞かせですか?」
絵本を読んで聞かせる時、必ずその相手(対象)と目的があります。
「子どもたちに物語を楽しんでもらうためですか?文化や言葉など、何かを学んでもらうためですか?もし言葉の学びのためならば、聞いている子どもたちの日本語や英語の力、内容を理解する力をどのように捉え、配慮や支援を行いましたか?」などと、問いを重ねました。
誰かに物語を聞いて味わってもらうために、情感を込めて本文を「音読する(read aloud = 声に出して読む)」ことも、絵本の読み聞かせのひとつの形と言えます。特に母語であれば、何度も読み聞かせを聞いた幼い子どもがその世界に没頭し、まだ文字も読めないはずなのに本文全体を暗記して言えるようになることもあります。英語でも、何度も繰り返されるフレーズや、印象的な語句を、そのまま覚えてしまう子どももいます。
こうした読み聞かせを、子どもの学びに寄与するように行うには、どのような工夫が可能でしょうか。
「動的」な母語の絵本の読み聞かせ
読み聞かせには、聞き手(=子ども)との「やり取り」を大切にしながら、動的(= ダイナミック)に進める形もあります。
10年位前の話になりますが、イギリスで、絵本の読み聞かせを通して世界各地で幼児・児童教育に貢献されてきたストーリーテラー(storyteller)の指導を受けたことがあります。そこで驚いたのは、絵本の読み聞かせという、それまで自分が「静的」なイメージとして捉えていたものの「動的」な姿でした。
例えば、ある絵本の読み聞かせは以下のように始まります。
- 子どもに絵本の表紙をじっくり見せる。まだタイトルは読み上げず、手などで隠しておく。
- 表紙の絵が「何を」表しているのかを問い掛け、子どもと一緒に考える。裏表紙も忘れずに。子どもの自由な発話を受けとめる。 《問い掛けの例:What’s this? / Where’s this? / Who are they? / How many people [dogs, houses, etc.]? / What color? / What’s this story about? / What’s happening?》
- 子どもが自力でタイトルを読めるならば、“What’s the title of this story?” と尋ねる。読めない場合は、指導者が “Look. Here is the title of this story. Listen. ….”のように読み上げて子どもに聞かせる。
- タイトルと表紙の絵を見せながら再度“Now, what’s this story about?”と尋ね、どのようなストーリーかを想像させる。
絵本の表紙をめくるまでに、これだけの「やり取り」を子どもと行うのです。
さらに、本文に入ってからは、次のように進めます。
- ページをめくる前に、So, what will happen next? などと「先を予測(forward inferences)」させる。
- いつも先を予測するだけでなく、時にはさらりと次のページに進み、なぜこのようなことが起こったのかを振り返させる(backward inferences)。
- 新しいページに移ったら、まず絵からどのような場面かを想像させ、子どもの言葉で描写を引き出す。その後、描写を整理して聞かせるイメージで本文を読み上げる。
- 場面によっては、子どもに登場人物などの気持ちを推測させたり、「自分だったらどうするか [どう思うか]」を考えさせたりする。
- 絵本を読み終えたら、再度、表紙を見ながら本文の内容を思い起こし、物語の続きや別の展開などを考えさせる。
「ことば」を学ぶための絵本の読み聞かせ
英語の習得を目的とした絵本の読み聞かせの場合には、文字技能を意識した次のような工夫を加えることもできます。
- 本文の文字を、声に合わせて指でたどりながら読み聞かせる。
- 子どもに意識させたい語を囲みながら発音を聞かせ、一緒に発音したりしながら、一瞥語(sight word)を増やす。
- sing / street / star に共通する /s/ など、同じ音から始まる語が現れたら、それを表す文字を指さして「音と文字の対応」への気付きを促す。
- 語頭や語尾の文字を指し、その文字が表す音のみを発音して聞かせる。再度その音が現れた時に、対応する文字を指して「音と文字の対応」の理解を深める。
- 繰り返し現れるフレーズ(語のまとまり)は全体を囲むように指し、子どもに広いスパンで文字のまとまりを見ながら発音するように促す。
これらのように、絵本の読み聞かせを、子どもとの動的な「やり取り」として行ったり、焦点を当てる知識や技能を明確にして取り組むことにより、思考力の育成にもつながります。
思考から生まれた子どもの自由な発想を、子ども自身が自分の言葉で表現することを大切にし、指導者など周りの大人がそれをしっかり受けとめること。そのためにも、子どもに巧みに問い掛け、言葉を引き出しながら積極的に関わっていくことが、言語習得だけでなく様々な学びに必要です。
<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。