小・中#15-1: “What subject do you like?” 「好きな科目は何ですか?」(前)
時間割は学校に通う児童生徒であれば、一日に何度も目にするもの。「次は何の時間かな」と、何度もそこに書かれている科目名を見て、次第に暗記してしまったりします。好きな科目のある曜日は心がウキウキしたり、逆に苦手な科目のある曜日はドンヨリしたり・・・。科目の好き嫌いが、曜日の好き嫌いに影響することもあったり・・・。
今回は、その「科目」についてのやり取りを考えます。
いつものように指導者が、既習の表現をうまく盛り込みながら、科目について自分の思いや考えを語ります。
T: Look at the timetable of our class. We study many subjects. On Mondays, we have [study] Japanese, math, science, English, and home economics. I like music. I like playing the recorder. On Mondays, we don’t have music. We have music only on Tuesdays. So I like Tuesdays. I want to enjoy the music class.
続いて、児童に問いかけていくわけですが、その問いによって児童の反応も少しずつ変わってきそうです。以下、いろいろな例を見てみます。
【例1】
指導者のモデルに続いて、以下のようなやり取りを期待することが多いかも知れません。
Ask me.
これはどのような「尋ね合い」の表現を導入する時にも用いることができる、非常に便利な表現です。
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S1: I like P.E. I like running. I can run fast.
しかし、このやり取りはなかなか実現しづらいと考えられます。それは以下のような理由によります。
【例2】
児童が “How about you?” という問いで何をたずねられているのか分からなくなり、沈黙してしまう例です。
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S2: ….
T: What subject do you like??
“How about you?” の前で(指導者の)「好きな教科」と「その理由・詳細」が述べられていますが、いずれも “I like ~.” という表現で始まっています。「あなたはどう?」と言われた時、「好きかどうか」をたずねられたことは分かったとしても、さて「どちらのことか」を悩んでしまうことがあります。こうした場合は、指導者の “How about you?” が意図していた問いかけに、すっと言い直していくとよいでしょう。
【例3】
児童が “How about you?” という問いに、指導者の直前の発話の一部を使って答えた例です。「自分も音楽が好きだ」と伝えています。
[3-1]
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S3: I like music.
T: You also like music? Music is fun. I like playing the recorder. Why do you like music?
一方、指導者は「音楽が好き」と話しましたが、児童にとって音楽が好きではないこともあります。
[3-2]
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S4: I don’t like music.
T: You don’t like music? Why?
具体的な疑問文ではなく “How about you?” という問いかけをした場合、自分独自の答えよりも、指導者の直前の言葉の一部を使って反応する児童が多いです。
[3-1] の例は、児童の反応を受けて、その理由をたずねるまでに、(指導者が)音楽が好きな理由を「このような理由の伝え方がある」という参考になるように聞かせることができます。
しかし [3-2] の例では、理由の参考となる表現を提示することが意味的に難しいため、すぐに “Why?” と聞き返してしまいがちです。せっかく頑張って「音楽は好きではない」と伝えた児童に対して、「なぜですか?」とたずねる時には、「嫌いなの?なぜ?」と追い込む形にならないよう、「その理由を聞きたい。関心がある」という思いを伝える表情などを心がけたいものです。
【例4】
児童が、指導者の発話の一部の語だけを繰り返す例です。
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S5: Recorder …?
T: Yes, I like playing the recorder. How about you?
S5 の発話に続き、指導者が S5 の「言いたかった(であろう)こと」を推測して “You like playing the recorder?” と言うこともできそうですが、ここではあえて “Yes, I like playing the recorder.” として、指導者自身が直前で言った表現を繰り返し、もう一度 “How about you?” とたずねています。すなわち、「リコーダーを吹くことが好き」という1つの情報だけに絞って、「あなたはどう?」と続けています。これは児童自身の力で、何かを「文の形」で伝えて欲しいという期待です。
もちろん2回目の “How about you?” の代わりに、”Do you like playing the recorder?” とたずねることもできますが、これでは Yes か No のどちらかで答えが終わってしまいます。どうにか児童自身に “I like playing the recorder.” または “I don’t like playing the recorder.” と、指導者のモデルを頼りに答えて欲しいところです。
さらに、指導者は「好きな教科」を聞き出そうとして “How about you?” と言ったとしても、以下のように児童が答える場合があります。
T: I like music. I like playing the recorder. How about you?
S6: I like the recorder.
T: You also like playing the recorder?
S6: Yes.
T: Oh, do you? Playing the recorder is fun. Then, do you like music?。
こういう時でも、指導者はさりげなく “You (also) like playing the recorder?” と聞かせながら、それでもきちんと児童の発話を受けとめ、それを生かしながら「音楽という教科」の話へと戻す配慮を大切にします。同時に、やはり “How about you?” という問いのみでは、指導者の思いとは異なる理解が生じる可能性を意識しておくことが必要です。安易に「便利な表現」として、指導者も児童もこればかり繰り返す様子を目にすることがありますが、決してマジックフレーズであるわけではなさそうです。
【例5】
上の4つの例を踏まえて、(指導者のモデルに続く)少なくとも最初の児童への問いかけは、具体的な問いを聞かせることで、話を広げることができそうです。
T: I like music. I like playing the recorder. (How about you?) What subject do you like?
S7: I like P.E. I like running. I can run fast.
上は「好きな科目」についてやり取りを展開する場合、そして下は「リコーダーが好きかどうか」から話を発展させる場合、です。
T: I like music. I like playing the recorder. (How about you?) Do you like playing the recorder?
S8: Yes, I do. I like playing the recorder. I like playing the piano, too.
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児童への問いかけには、指導者のさまざまな思いが反映されています。ひとつひとつが計算された問い・・・といっても過言ではないと思います。一生懸命に指導者の問いかけに「答えたい」「答えよう」と思っている児童ですから、最初は指導者にとっても、児童にとっても、意図が明確な問いから始めてみるとよさそうです。
次回は「教科」について、内容面からどのような Small Talk の展開ができるかを考えてみたいと思います。