【第16回】英語学習の向き、不向き?
英語を学んでいると、思うように学習が進まないときなどに、「自分には英語を学ぶ才能がない」とか、「外国語学習には向いていない」と感じることがあるものです。ですが、そもそも「言語を学ぶ」ことに「適している」とか、「適さない」という違いがあるのでしょうか。
今回は「言語を学ぶために必要な能力」、すなわち「言語学習の向き、不向き」についてMLAT (Modern Language Aptitude Test) (Carroll & Sapon, 1959)というテストを例にとってお話しします。
言語学習の適性とは
一般に、母語は自然に無意識に習得されます。しかし外国語を習得するには、二言語併用(バイリンガル)の環境で学ぶような場合を除き、意識的な学習が必要になります。さらに外国語の習得は人によって差があることから、「その言語の学習に適しているとは、どういう能力があることか」、すなわち「言語適性」(language aptitude)を明らかする研究が行われるようになりました。
アメリカの心理学者Dr. John B. Carrollは、「言語適性」を外国語を学ぶ「才能」(ability)であり、「要領の良さ、こつ」(knack)と定義づけ、以下4つの能力要素から構成されると論じました (Carroll, 1981):
●音声符号化能力(Phonetic coding ability):
個々の音とそれを表す記号(文字)との対応に気づき、記憶する能力
●文法に対する敏感さ(Grammatical sensitivity):
文の中で、それぞれの語が果たす機能を理解する能力
●暗記学習能力(Rote learning ability):
新たな言語の語と、その母語での意味を機械的に関連づけて学び、記憶する能力
●帰納的学習能力(Inductive learning ability):
言語の構造を決定づける規則を推測し、帰納的に理解する能力
これらに基づきCarrollらは、「言語適性」を測ることのできるMLAT (Modern Language Aptitude Test) (Carroll & Sapon, 1959)というテストを作成しました。
どのような問題を解いていくと「言語適性」が明らかになるのか、気になりませんか?以下で少し例をご紹介します。
その前に、MLATは英語母語話者や、英語をある程度習得している人の外国語学習を想定しているため、日本語母語話者の英語力によっては妥当な結果とならないことがあるので注意が必要です。
MLATの構成
MLATには以下のような5つのパートがあり、それぞれ外国語学習に特徴的に関わる技能を測ります。
■Part I: Number Learning
新たな言語での「数字の言い方」を、発音を聞いて学ぶ。そして、それらの発音の組合せを聞き、何の数字を表すかを書いて答える問題。
例えば、「“ba” = 1, “baba”= 2, “dee” = 3, “tu” = 20, “ti” = 30」という数字の言い方を音だけを聞いて覚え、その後 “ti-ba”, “ti-dee”, “baba”, “tu-dee” を聞いて、それぞれ31, 33, 2, 23を答える。
■Part II: Phonetic Script
音の小さなまとまりと、その綴りとの対応を学ぶ。その後、聞こえた1つの音が、4つの綴りの選択肢うちどれかを答える問題。
例えば、「bot, but, bok, buk」という綴りを見ながら、それぞれの発音を聞いて覚える。その後、改めてそのうちの1つ(“buk”)を聞き、それが4つの綴りのどれかを選ぶ。
■Part III: Spelling Clues
一般的な綴りではなく、発音に近い綴り方で表された語を見て、そこから認識される発音をもつ英語の語と最も近い意味を表す別の語を、4つの選択肢から選ぶ問題。
例えばklozという綴りを見て、「attire, nearby, stick, giant, relatives」のどれに最も意味が近いかを答える。klozから “clothes” と同じ発音が浮かべば、意味が近いattire(服装)を選べる。
■Part IV: Words in Sentences
2つの文を見て、1つ目の文中の特定の語と同じ機能を果たす語を、2つ目の文から選ぶ問題。
例えば、“John took a long walk in the woods.” の “John” は「その文が何についてであるか」を表す。これと同じ機能を果たす語として、“Children in blue jeans were singing and dancing in the park.” という文から抜き出された5つの選択肢「Children / jeans / singing / dancing / park」からChildren を選ぶ。
■Part V: Paired Association
外国語と母語(英語)で対応する意味をもつ語が並記されたリストを見て、すばやく記憶する。その後、外国語の語を見て、その意味を表す英語の語を5つの選択肢から選ぶ問題。
例えば、「c?on – gun」「si? – wood」「k?ab – hand」「kab – juice」「bat – ax」「pal – son」といった対応関係を短時間で学習し、その後batを見て「animal, stick, jump, ax, stone」の選択肢からaxを答える。
いかがでしょうか。
外国語を習得するためには、細かな音の違いや文法的規則性への敏感さ、短時間で記憶する能力など、これらすべてが必要だと考えてしまうと、確かにハードルが高そうな気がしてしまいます。ですが言語適性テストが教えてくれる重要なことは、他にあります。
「言語適性」は自分に合った学び方のヒントをくれる
Carrollによれば、そもそもこの「言語適性」とは、言語をどれだけ早く(quickly)容易に(easily)習得するかを決定づけるものにすぎません。一定の期間、一定の条件下で行われる言語学習の中で、どれだけ効率よく習得できるかという「量」に影響を及ぼすだけです。
大学の授業でこのMLATの問題を見せると、「自分には英語習得の適性がないことが分かりました・・・」と落ち込む学生がいます。しかし「言語適性」は単に「ある」とか、「ない」とかの問題ではありません。上述の「言語適性」の4つの能力要素のうち、「どれが他より優れ、どれが他より劣っているか」を相対的に説明するものです。つまり「言語適性」を知ることは、自分に「どういう学習方法が効果的か」「どのような学び方から始めることが得意か」に気づくことにつながります。
例えば「音」から入るのが得意な学習者は「音」から言語に慣れ親しみ、文法や構文などの規則を「暗記」することが得意な学習者は「知識」の学習から入るのが効率的です。さらに、「規則性を類推すること」が苦手なら明示的に規則を学び、「暗記が苦手」なら何か他のものと関連づけて学ぶ方法を取り入れればよいということです。
外国語の習得は、意識的に学習を続けることにより達成されます。動機づけを維持し、「言語適性」のうち自分に劣っている能力要素を補い、優れた要素を生かしながら、学習方法を調整して努力していくことが、外国語の習得には大切です。だからこそ、英語教員にとって、目の前の児童生徒にさまざまな学習方法、英語との向き合い方を示していくことが期待されるのです。
Modern Language Aptitude Test について<英文サイト>
https://lltf.net/aptitude-tests/language-aptitude-tests/modern-language-aptitude-test-2/
<引用文献>
Carroll, J. B. (1981). Twenty-five years of research on foreign language aptitude. In K. C. Diller (Ed.), Individual differences and universals in language learning aptitude (pp. 83-118). Rowley, MA: Newbury House.
Carroll, J. B., & S. Sapon. 1959. Modern Language Aptitude Test (MLAT). New York, NY: The Psychological Corporation.
<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。