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2022.12.09 教育情報 英語教育コラム

【第23回】「臨界期」再考 - 発達段階に応じた学び方を

 「英語の勉強は早く始めた方がよいですか」。
これは英語教育に関して、最も多く投げかけられている問いの一つではないでしょうか。

 英語学習を始めるのは「早ければ早いほどよい」という考え方は、恐らく「言語習得の臨界期を過ぎたら、新たな言語を完璧に身に付けることは難しい(できない)」という「臨界期仮説(Critical Period Hypothesis)」の影響が大きいと思われます。「臨界期」とは、認知発達の過程で学習・習得に最も適した時期のことであり、認知発達全体では思春期が始まる12歳ごろまで、特に言語能力の発達については8~9歳ごろまでを指すと言われています。

 しかし単に言語能力といっても、例えば音声的側面は6歳ごろまで、文法構造的側面や語彙的側面はもっと遅くまで、のように言語能力の側面ごとに学習・習得に最適な時期があるとする「複数臨界期仮説(multiple critical period hypothesis)」という考え方もあります。また、学習にはそれぞれの子どもの個性や性格などの特徴も影響しますから、一概に「ある年齢を過ぎたから英語の習得が非常に難しい」と考えるのは正しくないようです。

ただこの臨界期の考え方について知ることで、以下のように、子どもの英語学習についてのヒントを得ることができます。

生後12か月ごろまでに、いろいろな「音」に触れさせるとよい

 子どもは成長にともない、自分に必要なことばの音を聞き分ける力を伸ばしていきます。その際、他の認知技能と同様に不要な「力」には「刈り込み」が起こります。

 「刈り込み」は脳科学の用語ですが、脳の神経細胞と神経細胞の接合部であるニューロンが、生後急速に精緻化して過剰に形成されるものの、その後の経験や環境によって必要なものは強められ、不要とされたものは除去される現象を表します。これを言語習得に当てはめると、生後まもない子どもは様々な言語に対応する音の感受性を高めていきますが、自分の日常生活において母語が中心であり、様々な経験を母語環境で行っているならば、母語以外の言語の音を聞き分ける能力は失われていきます。実際に、日本語を母語とする子どもも、生後6か月ごろまでは英語を母語とする子どものように /r/ や /l/ の音を弁別することができることが研究によって明らかにされています。しかしその後、母語、すなわち日本語で区別されない音への感度が下がり、逆に母語である日本語の細かな音への違いへの敏感さを高めていくのです。

 それゆえ、子どもがまだ小さい時に、どんどん英語の歌も日本語の歌も、取り混ぜて聞かせるとよいという考え方が生まれます。自然に音声で触れる環境を整えれば、どちらかがどちらかの音に対する感受性を阻害することはないと考えられています。英語と日本語それぞれに特有の音の周波数もありますし、様々な音を「聞き慣れておくこと」が大切です。一方、年齢が比較的高くなってから英語を聞き始めるのであれば、単に聞き流すのではなく、指導者など周りの大人も一緒に聞きながら、「今の音はどのように出すのだろう」、「日本語にはない音だね、どういうふうに違うかな」などと、学習者の英語の音への敏感さを高めるような問い掛けを行って、音の違いや類似性を楽しむきっかけを作るとよいでしょう。

言語に対する意識を高める支援を行う

 年齢が高くなると「言語を習得できない」のではありません。確かに音声的な敏感性などは、意図的な学習だけで伸ばすには限界があるのかもしれません。しかし、多くの側面については、臨界期を境に「学び方が変わる」のです。「音声によって様々な語句や表現に慣れ親しみ、それらを模倣することによって自然にそれらを習得していくのにふさわしい時期」から、次第に「自分が今学んでいることについて、文字などの視覚情報や文法規則などで整理しながら、既習事項と関連づけて学ぶのにふさわしい時期」へと移っていきます。つまり年齢や発達段階に応じて、効果的な英語の学び方は変化するということです。

 こうした学習過程全体を通じて大切なのは、子どもの英語学習に関わる大人が、子どもの「言語意識(language awareness)」、すなわち「言語の用法や表現方法などに関する敏感さ」を高める「ちょっとした支援」を与えることです。母語環境のように、日常生活で触れるインプットが多ければ、子どもは自分の力でその言語への敏感さをある程度は高めることができます。しかしながら、英語が外国語である日本で英語を学ぶ場合のように、限られたインプットの中で子どもが言語の特徴に意識を向け、音や表現の「違いや特徴に気づく」ようになる力を高めるには、周りの大人や指導者から意図的な働きかけを行ったり、子どもの気づきを整理して伝えたりすることが大きな意味を持ちます。

 例えば母語習得において、文末を上げ調子にして「○○ちゃん、おやつ食べる?」と子どもに尋ねたとき、最初は一語発話で「おやつ」しか言わなかった子どもが、次第にその表現を模倣して「○○ちゃん、おやつ食べる」と複数語の発話をするようになります。この時、大人がさらに「○○ちゃん、おやつ食べるのね」と子どもの発話を引き取って文末を下げ調子で発音することにより、子どもは場面や状況に応じて意味を理解するだけでなく、肯定表現の音韻特徴も習得していくのです。

 子どもの様々な学びの中で英語の学習においても、周りの大人がまず、子どもの発話を適宜調整しながら繰り返したり、言語の特徴に気づかせるような問い掛けをしたりしながら、学習を支援していくことが大切です。英語学習を「早ければ早いほど」ではなく、「今の発達段階にどのような学び方が必要か」を意識して、適切な学習環境を整えていきたいものです。
小学校中学年の「外国語活動」から始まる英語学習も、高等学校卒業までで10年間になります。この期間の英語の授業でも、それぞれの子どもの年齢や認知発達、性格、学習方略、それまでの習得状況などを考慮した多様な学びが提供できるようになればよいな・・・と思っています。
(ICTの活用も、そのヒントになるのかもしれませんね。)

 


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<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。

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