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2022.03.18 教育情報 英語教育コラム

【第6回】「読むこと」の領域の指導について考える③

 以前、イギリスで児童英語教育を長年実践研究されている先生とお話する中で、日本の小学校英語教育における文字指導の話題になり、「どうしてアルファベットの大文字から教えるの?」と尋ねられました。小学校英語教育においてアルファベットの大文字から指導することについて、「日常生活の中で大文字を目にすることが多く、子どもたちに馴染みがある」、「直線が多い」、「左右対称なものが多い」、「小文字のように4線上に書く際に、高さや位置が異なるものがない」といったことが理由として挙げられています。そう答えると、先生は「でも私たち(英語母語話者)がふつう用いるのは小文字だ。日本語の文字を書く時にも筆の運びが大事だから、それを練習するのではないか。英語を母語とする子どもたちも運筆と筆圧を学ぶ時期があり、クネクネした曲線や、伸ばしたバネのようなクルクルの線を書いたりすることから始め、次第に小文字を繋げるイメージで書く練習をする。そして n や m のように、終わりの部分が糸を引くように次の文字と繋がりやすいものから実際に書いていく」と教えてくださいました。この小文字が繋がっているイメージをもつことが「読み書き」の発達に大きな役割を果たすのだそうです。

 小文字の指導の大切さについて聞きながら、私が気になっていたのは、小学校3年次に「外国語活動」でまず大文字に出合いながら、「国語」で扱うローマ字の学習を通して、アルファベットの小文字を使って日本語を表す表記法を学んでいる子どもが多いということでした。一度に多くの小文字に触れれば、形の区別だけで混乱すると思われます。習得に時間のかかる小文字だからこそ、どうにか効率的に学び、読み書き発達を促すことができないかと考えてきました。

子音の音の特徴が意識されていない?

 前回の『「読むこと」の領域の指導について考える②』の中で、オンセット・ライムの区切りから英語の語の「はじめの音」に気づかせる意義をお話しました。

 実際の授業でも、教科書のデジタル音声を聞きながら、語の「はじめの音」を児童が繰り返す活動が行われています。でもよく耳を澄ましてみると、m-ap が「/m/, /ap/」ではなく「/ma/, /ap/」となったり、p-en が「/p/, /en/」ではなく「/pe/, /en/」と発音されているのに、そのまま授業が進んでいることが多いのに気づきます。

 もしかしたら日本語で子音をそのまま聞くことがないから、子音の音というものに気づいていないのではないか。

国語の「ローマ字」学習を通して、小文字を使って子音の音に気づかせてみよう!

 そこで最近私が提案しているのは、「ローマ字を学ぶ時に、子どもたちに子音の音の存在を意識させる」ことです。
英語の読み書き技能の発達のために、語の「はじめの子音の音」に注目させる活動が重要なのなら、そのための活動を、ローマ字学習にも取り入れるということです。日本語には鼻音の「ん」や促音の「っ」などを除いて、基本的に子音のみで存在する音はありません。そのためローマ字では「子音字+母音字」の組合わせで、仮名文字を表記します。しかもローマ字ではアルファベットの小文字を用いますから、小文字に慣れ親しむチャンスとなりそうです。

 実際に、ある小学校3年のクラスで、A「亀、北(の方角)、熊、えんどう(豆)、昆布」とB「雨、板、馬、剣道、おんぶ(の様子)」を表すそれぞれ5枚の絵カードをAとBでまとめて黒板に貼り、「2つのグループはどこが違うかな」と尋ねてみました。最初は戸惑っていた子どもたちですが、次第に「亀は、雨に『か』が付いています!」などと発言し始めました。「雨に『か』をつけると『かあめ』だから、亀ではないね」と導きながら、AのグループはBの単語の初めに子音 /k/ の音が付いていることを理解させます。さらに「/k/ … あめ、かめ!」と音の足し算(混成)に慣れてきたら、「/k/ の音はこの文字で表します」と言いながらkの小文字カードを提示します。

英語教育コラム06_挿絵

 このように「母音の前に付く音」と「その音を表す文字」の対応を意識させながら他の行を指導していくと、子どもたちが自発的に、「あど(→窓)」、「うくえ(→机)」のように日本語の単語から「初めの子音」を取り除く「音遊び」をするようになりました。ある時、一人の女の子が上を指差しながら「えんじょう」と叫んだので「え、炎上?」と驚きましたが、実は「天井」から /t/ の音を削除していました。また日本語では、例えば「好き(suki)」の /u/ や「鹿(shika)」の /i/ のように、母音の /i/ や /u/ が、/k/, /s/, /t/, /h/, /p/ などの無声音(発音する時に声帯の震えを感じないもの)の子音に挟まれている場合や、語の終わりにくる場合などには、母音が無声化して聞こえないことがあります。こうした現象にも気づき、「英語の ski は日本語の『好き』の /s/ の音と同じだね」と教えてくれた子どももいます。もちろん、英語と日本語では子音の音が完全に同じではないため、音を分析できるようになったら、各言語の標準的な発音にしっかりと慣れ親しませることが重要です。

*こうした気づきを促す具体的な活動は次の記事でもご紹介しています。
《小学校英語》「音あそび」をしよう!

・STEP 3「どこが違うかな」
STEP 4「日本語をアルファベットで表してみよう ~ ローマ字① 《無声音の子音から始まる行》 ~」
STEP 5「日本語をアルファベットで表してみよう ~ ローマ字② 《有声音の子音から始まる行》 ~」
STEP 6「日本語をアルファベットで表してみよう~ ローマ字③ 《ヘボン式綴り》 ~」
STEP 7「日本語をアルファベットで表してみよう~ ローマ字④《書けるかな?》 ~」

 このように、子どもたちが日常生活の中で聞いたり、発したりする「ことば」を構成する「音」に関心を引きつけてみましょう。小学校中・高学年であれば、「亀と雨(英語なら ski と key など)では、どういうふうに音が違うかな」という問いかけができます。また就学前、小学校低学年であれば、日本語や英語で絵本の読み聞かせをしながら、「/k/ の音が聞こえたら拍手しよう」のように、小さな単位の音に集中して聞くことを促す活動から始めます。この「音を分析する力」が、音声言語を正確に聞き取るだけでなく、自分が発声する音の聞き分けにも作用し、その後の「適切に発音する力」の発達に役立ちます。


 

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<執筆者:池田 周 (いけだ・ちか) 先生のPROFILE>
愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。

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