【第20弾】みんなで進んでいく英語の授業
三重大学教育学部附属中学校
教諭 𠮷水 慶太 先生
1.はじめに
今年度4月から三重大学教育学部附属中学校で勤務しています。世界が1つの大きな課題(新型コロナウイルス感染症について)を抱えている現在では、毎日のようにゲームチェンジが起きています。昨日までの常識が今日から通用しないということが起きています。突然対面授業が困難になり、オンライン授業に切り替わることもありました。
しかし、悪いことばかりではありませんでした。オンライン授業ではマスクを外した生徒の笑顔を見ることができました。そのときとても嬉しい気持ちになったと共に、皮肉にも今回の新型コロナウイルス感染症によって人と人との繋がりの大切さや温かさを改めて学ぶことができました。だからこそ、学校で行う対面授業は当たり前ではなく貴重なものであり、学校で行うからには「学校でしかできないこと」を意識するようになりました。
2.Enjoy Using English 🙂
日々の授業では太田光春先生に教えていただいた “Don’t study English. Use it.” という言葉を常に意識して、毎日生徒と英語を使う時間を大切にしています。All in Englishで授業をするのも英語を使うという点で徹底しています。授業中に日本語は一切使いません。「英語は道具」とよく言われますが、意識していないと使い方ばかりを学び、実際に使う機会が訪れないということが往々にしてあります。それは何としても避けなければなりません。道具は使ってなんぼです。生徒は英語を使っているうちに正しい使い方に気がついたり、新しい使い方を発見したりします。ときには私が「なるほど」と思わされることも少なくありません。授業は生徒と教員で作っていくものだと肌で感じています。
3.指名はしない
「英語を使う」活動の方法について紹介します。トピックについて話す活動では、いきなり全体で発表するのは英語力以外の負荷が大きいので、まずは自分で考え、次にペアで話します。英語を使うことに対する安心感を持たせるためです。ペアを替えつつ中間指導をしていくことで「そうやって表現するのか」「これ、私も言いたかった」と生徒たちが言いたいと思っていた表現が増えていきます。
全体での発表は “Any volunteers?” の形で行います。こちらから指名することはありません。挙手をしてくれた生徒が発言していき、生徒が持っている情報、感情、考えを伝え合います。挙手をする生徒がいなければ、ひとつ戻って再びペアでの対話をします。ここでもし指名に頼る発表形式を取ってしまうと、英語が苦手な生徒は「間違っていたらどうしよう」「当てられたくない」と英語の授業自体にマイナスなイメージを抱いてしまいます。無理に進む必要はありません。みんなが安心して一歩ずつ進んでいくことを優先します。
トピックについて話す活動は毎時15分程度行います。その都度トピックを変えたり、ときには過去に使用したトピックに戻ることで、生徒は以前言えなかった表現が使えるようになっていることに気がつきます。成功体験により自分自身の成長を感じることができるので、「もっと英語を使えるようになりたい」と授業に積極的に参加するようになります。
4.量と質
英語の授業では量から質が生まれることはあっても、質から量を生むのは至難の業です。質にこだわると生徒は間違いたくないという心理が働くので、自ら表現する量を減らします。そこで間違いをいちいち正しくするということはしていません。
採点については加点法を用いることで、生徒の活動をより活発にしています。たくさん話せば高評価、たくさん書けば高評価です。努力した分だけ生徒を褒めます。しかし、このままではいつまで経っても正確さが高まりません。また、生徒の間違いを教員が全て添削しても、生徒はそこから何も学びません。生徒の中では表現した瞬間にその活動が終わっているからです。
そこで、中間指導の際にtypical errorsを取り上げ、みんなで何が不自然なのかを考え、解決してから次に進みます。こうすることで、再び自分ごととして考えることができるのです。このようにみんなで進んでいく授業で教員に必要なのは「曖昧さに耐える」メンタルの強さです。
5.英文法クリニック
英語を使っている中でたくさんの疑問が出てきます。しかし、授業中に英文法を説明することはほとんどなく、英語を使いながら少しずつ学んでいくスタイルなので、すぐに答えがほしい生徒にとってはもどかしい時間が続きます。
そこで英文法クリニックというものをスタートしました。GIGAスクール構想の加速とオンライン授業の実施により時間と場所の制限から解放されました。これを利用しない手はありません。勤務時間外ではありますが、Zoomで予め設定した時間に参加してきた生徒が次々に英文法に関する質問をしてきます。これに答え続けるというシンプルなものです。
一度試しに実施した際には40人程の生徒が参加してくれました。予定が合わずに参加できなかった生徒からも「早く次をしてください」というありがたい声をいただいています。ここで学んだ表現を授業でどんどん使っていくことで、自分のものにしていくという流れが生まれることを期待しています。
6.おわりに
何もかもに制限がかけられた学校生活を強いられている生徒たちのストレスは想像以上のものです。授業以外(登下校時や休み時間など)での関わりで小さな変化にも気がつけるように、教員には普段から広い視野と高いアンテナを持続することが求められています。
また、解決すべき問題が減ってきた現代では問題を発見する能力を鍛える必要があります。新たな問題を発見することができれば、それを解決しようと努力することで人類はさらに進化することができます。英語は世界に発信するのに最も適した言語です。今こそ世界がひとつとなり、共通の課題を解決していくときです。再び楽しく笑い合ってワイワイガヤガヤ授業を行える日がやって来ることを祈っています。みんなで未来に進んでいきましょう。