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2023.02.22 教育現場より 先生のための授業参観

【第25弾】授業改善に取り組む先生方の力になりたい

山口県教育庁  義務教育課
指導主事 櫻井 健一郎 先生

 

 子どもたちの目の輝きこそが良い授業の証。教科書だけを見ながら授業をするのではなく、子どもの様子を見ながら授業に取り組めば、おのずと結果はついてくる。

研修効果を高めていく

 櫻井先生が特に取り組んでいるのは、教員研修の充実である。担当する義務教育段階、特に中学校の英語教育の課題として、小中接続に着目している。「小学校では英語に音声で慣れ親しんできたのに、中学校になると教科書の内容や文法事項を説明することが中心になりがちであり、さらに高校入試ばかり意識してしまう。確かに出口も大事だけれど、まずは入口。小学校でどのような力をつけてきて、それを中学校英語にどうつなげるかが大切だと思うんです。」たとえ中学校の出口として高校入試を意識するとしても、山口県の県立高校入試の英語問題は令和元年度に3年生対象に行われた全国学力・学習状況調査を踏まえた問題形式に変わってきており、思考力を測るようなものもある。こうした具体例を伝えることも、「中学校の出口は変わってきていることと伝えるチャンス」だと捉えている。

 課題は他にもある。中学校ではこれまでも「『CAN-DOリスト』形式による学習到達目標」を作成してきているが、年度ごとの見直しはあまり行われていなかった。そこで今、県内の小中高連携英語教育連携推進校が中心となり、「こんな力をつけたいから、この単元ではこんなパフォーマンステストをしよう」などといった単元計画例を分かりやすく簡略化してまとめ、それを県のモデルとして示す試みに取り組んでいる。そうすることにより、中学校でも、小中接続を意識した連携カリキュラムを作る段階で「『CAN-DOリスト』形式による学習到達目標」を見直す必然性が生まれれば、と櫻井先生は考えている。

 こうした課題に取り組むため、これまで山口県では、年1回の研修会を全県悉皆で行ってきた。昨年度は英語で授業をどのように進めるかをテーマとしたが、やはり1回の研修だけでは、研修後の授業実践で生じる悩み等を共有する場がなく、授業スタイルを研修前に戻してしまう先生方も多かったという。「研修で学んだことをどのように授業に反映させているか、それを確認したり、共有したりするためにはどうすればよいか。」

 そこで今年度は研修を年3回とし、1回目は集合研修で、授業改善に向けてバックワードデザインの考え方など理論を学んだ。そこから各自で授業改善に取り組み、2回目・3回目はオンライン形式とし、クラウドを活用して情報共有しながら授業改善の中間発表を行ったり、生徒や教師自身の変容についての報告を行ったりしたう。

 研修テーマも「バックワードデザインの単元計画」にシフトした。単元末にパフォーマンステストを行うために、単元で評価する領域を検討し、教科書別、単元別にグループで単元計画を作成した。「ゴールから逆算して、こういう活動をしないと生徒には資質・能力が身につかないよね、というバックワードの考え方を、今年初めて全面に押し出して進めています。」

 研修の中には、実際に櫻井先生自身が立てた単元計画を現場の先生方に見せながら行うものもある。
「ゴールが決まっているから、子どもたちにかける言葉も変わってきます。そして、どの意見を机間指導の中で吸い上げるべきかが分かるんですね。」という参加した教員の声が聞こえてくる。「ゴールを明確にしてから進めると、授業が楽しくなりました。」という参加者の感想もあったという。「これまでただこなしてきた授業が、子どもたちをこのゴールまでもっていくぞという感覚になれば、先生方にとってもっと楽しいものとなるはず。そう言ってくれる先生が一人でも増えれば。」と願う。

言語活動の正しい理解と実践に向けて

 「令和4年度山口県英語教育改善プラン」では、パフォーマンステストを年5回行う方針を打ち出した。さらに年度末には、年間を通しての学習到達目標の達成状況を確認することを大切にするとしている。

山口県英語教育改善プラン(PDF)

 実は、山口県は「令和3年度 英語教育実施状況調査」によると、授業中の「発話をおおむね英語で行っている教師と発話の半分以上を英語で行っている教師」を合わせた割合が小学校で96.6%、中学校で90.9%と非常に高く、全国でも5本の指に入る。だが櫻井先生は、「自分が見る限り、まだまだ実情を伴っていないように感じます。」と話す。「実際に英語で行う授業の成果が現れているとは言いがたい。これは言語活動に課題があるためではないかと。(調査結果では)言語活動を授業の半分以上行っている先生が90%以上いる結果にはなっているが、そもそも言語活動とは何かがまだきちんと理解されていないのかもしれません。」と学校現場の課題を厳しく分析する。

「英語を使った活動全てが言語活動だという誤った捉えがあるか中で、目的、場面、状況等をしっかり設定して、生徒に実際に英語を用いて、目的を達成するためのコミュニケーションに取り組ませることが大切であると、事あるごとに繰り返しています。」

 「言語活動中心の授業を経験している子どもは、本当に英語が楽しそう」と櫻井先生は続ける。「単語や文法を完全に理解しないと、教科書の本文を読んだり、言語活動に取り組むことができない。」という積み上げ式の考え方が、どうしても抜けない先生もいる。「学んだことを言語活動の中で実際に使ってみる経験をし、その中で失敗したことを少しずつ確認して身に付けていく。その過程で先生方も目標の達成に必要な支援を行う。」こうした流れの定着にはまだまだ時間がかかるだろうと思われるからこそ、音声を大切に、実際に英語を使ってみることの大切さをしっかりと伝えている。

 新たな教育課程が浸透するに従って、山口県の多くの中学校でも、各授業の学習到達目標である「めあて」の板書や生徒との共有が広く行われるようになってきた。「でも、そのめあてが知識・技能の習得のみになっていることがよくあります。」例えば、「be動詞を覚える」というめあてが示されると、生徒の振り返りが「be動詞を覚えた」になってしまう。ここにこそ言語活動の考え方が生きてくる。「~することができる」というめあてが設定されていれば、「~することができるか」どうかを確認する言語活動を取り入れることになる。そうすれば、子どもたちの振り返りが変わる。振り返りは、子どもたち自身の言葉でアウトプットさせることが原則であり、先生方の思いを伝えて子どもがうなずくだけでは振り返りではない。だから「子どもたちに、自身の変容に気付かせる文をチェックする形式での振り返りを薦めています。振り返りでまだできていないと分かった項目については、リトライさせる。こういう時間を授業や単元の最後にしっかりと確保することによって、子どもの力を伸ばしたい。」

山口県の特色ある取組としての連絡会

 県全体の研修の他に、櫻井先生が手応えを感じている取組がある。「やまぐち英語教育推進連絡会」である。「市町教育委員会担当指導主事、小学校英語専科教員、英語教育推進教員で、オンラインと集合を合わせて年間10回くらい情報共有の会を行っています。横のつながりが大事という意識をもつために、専科同士のグループ、推進教員同士のグループで情報共有をします。市町単位で月に1回くらい研究会を行い、独自のCAN-DOリストをまとめています。このうち、すべてではないですが市町単位の集まりに私たち県の指導主事も参加させていただいて、県や国の方針を伝えています。県ができることは限られているので、市町ごとの動きを大切にしています。」

 先生方に言語活動の一例をクラウドにあげてもらい、全県でそれを共有して「これはいいね」とか、「改善できるよね」とかいったコメントを伝え合っている。クラウドが全県からアクセスできる意義は大きく、例えば研究会前には事前課題への取組をクラウド上で共有し、それをもとに研究会当日の内容を仕組む。この取組が先生方の研修の効果を高めているという。昨年度はクラウド上で共有された課題に対して、コメントを櫻井先生一人で行ったが、本当に大変な作業だった。だから今年は市町の指導主事と方向性を合わせ、推進教員にも「こういう方向性でコメントを一緒にしよう」と働きかけ、それぞれの担当地域の事前課題に対してコメントを入れるようにした。前向きな先生はコメントにコメントを残してくれる。フィードバックの連鎖である。「これは逃してはいけないポイントだ」「自分だったら、こんなふうに(生徒に)言います」などという具体的で有意義なコメントが増えた。

 例えば、先生方が言語活動と考えていると思われることについて、「これは言語活動と言えるでしょうか?なぜなら・・・」と具体例を添えると分かりやすいコメントになる。「いわゆる知識及び技能を活用して思考力、判断力、表現力等を鍛える」とか、「目的、場面、状況等が必要でその目的を達成する」といった理論的なものはなかなかイメージがわきにくい。だからこそ、「例えば、知識及び技能が中心となる、単語などを学ぶことが中心となる授業にも、言語活動を取り入れることができます。先生方ならどうやってこれを言語活動にしますか?」といった問いかけをし、その後の研究会でも取り上げるようにする。その際、良い指導事例の動画を観ながら検討し、どのように単語の学びが言語活動に組み込まれているかを示したこともあったという。研究会当日にはさらに、事前課題に含まれる良い取組の具体例をできるだけ示している。「こうした事例があると、先生方もやってみようかなと手応えになります。」一連のサイクルの中で、事前課題や相互のコメント、研究会当日の内容が有機的につながってこその成果である。

外部検定試験で児童生徒の英語力を客観的に測る

 先生方は一生懸命だからこそ、「この単語を知っていないと次に進めない。」という積み上げ式の考え方にとらわれてしまいがちだという。「もちろん文法説明は絶対に必要ですし、文法が分かってないと学んできたことの活用、応用は難しい。でもそれ(文法説明)のみの先生に対しては、変えていかねばならないというメッセージを発していきたい。」

 今年度、山口県では一部の小学校に英検ESG、全ての中学校に英検IBAを導入した。「言語活動をたくさんやっている学校では、実際にこういう授業で、こういう内容で指導を行っているから、子どもたちの英語力がこれだけついていますよ、と伝えるために、「これだけ」の部分を示す客観的指標を得る手段として外部試験を使う。そして外部試験結果の分析を通して、こういう力を高めていきたいと具体的に示していきたいと思っているんです。」

「授業改善」を目指して

 どんなに研修を行っても、どんなに授業改善の必要性を繰り返し伝えても、授業改善への一歩を踏み出せない先生がいる。その最大の原因は「成功体験の不足」にあると櫻井先生は言う。「授業改善をして、言語活動に取り組みながら学ぶことで、子どもたちに力が付いていくという体験があれば、もとの授業スタイルには戻れないと思うんです。しかし、子どもたちが変わるまで待てない、耐えられない先生が多いと思います。」授業スタイルを変えてみても、即座に子どもたちが変化する訳ではない。「あれ、(生徒は)もっとしゃべるはずなのに、しゃべれない」と慌ててしまうし、そういう先生の姿に子どもも戸惑う。だから、元の授業スタイルの方が良いのかなと思って、落ち着いた、安定した、それまでやってきた授業に戻ってしまう。だからこそ、「最初は戸惑いもあるかもしれないけれど、言語活動を繰り返し行っていくことで、きっと子どもたちに力が付いていくと伝えています。」

 研修が増えたことによる成果については手応えを感じるものの、そればかりでもない。中には、研修が多すぎるという指摘もある。「これまでは悉皆研修が年1回だったのに、今では事前課題もあり、アンケートもあり、確かに先生方にかなりプレッシャーをかけている。」だが櫻井先生は次のように続けた。「先生方も本当によく頑張ってくださっている。山口県の子どもたちに、もっと英語の力をつけてあげたい。だから、やれるだけやろうと思っています。」

 櫻井先生自身にも授業スタイルが変わる転機があった。「教科書中心で、教師のパフォーマンスでなんとか子どもたちを食いつかせることで、英語を好きにさせるという授業をずっとしていた。内容よりも型として。」ところが、山口大学の附属校に移った時、教科書を十分に理解している子どもたちから、自分の授業に対して「同じことを何度も説明されても・・・」という反応を感じる状況が起こったという。「何をすれば子どもたちの心に響くのか。決められたことをドリルでやるのではなく、自分のことを言う、相手のことを聞くという内容に迫っていかねばならない。そのために、どんなことができるのだろう。」と考えた。そして行き着いたのが、言語活動の充実だった。「子どもたちに鍛えられたという思いが、自分自身には常にあります。」こうした経験と、さらにバックワードデザインの考え方との出会いが、今の櫻井先生の信念を支えている。

 先生方は、基本的に子どもたちのことが好きだと思います。だから、自分のやっている授業での子どもたちの目の輝きと、良い授業、良い先生の授業を受けている子どもたちの目の輝きとの違いが分かります。実際に良い授業を受けている子どもたちに英語の力がついていると分かった時に、先生方も変わっていけると信じています。

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