【第6弾】With-corona 時代の風景
新潟経営大学経営情報学部経営情報学科
准教授 阿部 雅也 先生
1 はじめに
コロナ禍にあって、皆さんには未来に向かってどのような風景が見えていますか?これからは With-corona の時代でBefore-corona には戻れないとも言われています。私は戸惑いや不安のある一方、不謹慎かもしれませんが先の見えない未来に半分ワクワクしている自分にも気づくことがあります。オンラインの遠隔授業など新しいことを恐れず挑戦するようにし、目の前の大切な人のため「自分には今、何ができるか」に集中しています。大学時代にバックパック一つでオーストラリアを1年間働きながら旅したのですが、先が見えない中、日々挑戦を恐れず、より大きな世界を見た、あの時の風景に立っている気がします。
2 ZoomとGoogle Classroomを連携した遠隔授業
遠隔授業を始めて2ヶ月が過ぎましたが、授業は Zoom と Google Classroom で構成しています。Zoom(写真1)では教師の説明や学生同士のやりとり、発表を行い、Google Classroom(写真2)では主にデジタル情報の授受や課題提出の管理、成績処理などを行っています。Google Classroom では学期始め、授業ごとにオンライン上のクラスを作って学生を招待します。教師は写真2に示すような項目を自由に設定でき、私は「連絡黒板」「配布プリント」「授業動画」「課題」「教科書」「音声ファイル」などを作って学生に閲覧させています。例えば授業後に課題を投稿すると学生にメールで自動通知されて、学生からの提出物はGoogle Driveにクラスごとに保存され、それを学期末に成績に組み込むなどの一括処理も可能です。クラスの作成者であれば別のクラスで投稿を再利用できるので、作った課題や授業動画などを教員間で共有できており、実はチームでの協働にとても便利です。
3 ピンチだから「こそ」の協働
大学では協働が珍しいことかもしれませんが、同じ科目を担当するA先生とは、早い時期から、「学生のために今何ができるか」を共に真剣に考えました。Zoom と Google Classroom での遠隔授業を協働で進めることを話し合い、実践に移して行きました。2020年5月、大学全体で遠隔授業が始まったばかりの夕方、A先生から電話を頂きました。その日の授業でうれしかった学生の反応を伝えてくださる電話でした。「Zoom のチャット機能で自分が女子だったらメイドやってみたいと単語をつないで意見を書いてくれたり、Classroom 経由で出したボイスメモの課題に頑張って答えてくれたり、かわいい子たちが多くて、いとおしく感じた」と教えて下さり、私にとっても大変嬉しいニュースでした。A先生は私の Zoom授業を毎回参観してくださるなど大変熱心で、授業の振り返りも共有してくださいます。このような協働は、コロナによる危機的状況があったからこそ生まれたものだと思います。コロナ禍の「せい」で対面授業ができないピンチに陥っていたのですが、逆にこのような状況だから「こそ」協働の必要性やチャンスが生まれています。
4 オンラインだから「こそ」のまなざし
学生が自分の好きな時間に動画を視聴して課題を提出する「オンデマンド型」授業もあるようですが、私はことばの教師として、Zoom での「ライブ型」にこだわっています。授業時間を全員で共有し、教師のまなざしを感じつつ仲間と心を動かしてやりとりした「経験知」は、学生の心にコミュニケーションの温もりと一緒に残るはずだと考えるからです。Zoomではパフォーマンステストも実施可能です。「ブレイクアウトルーム」というバーチャルの小部屋に学生をペアごとに分けて入れて、Q&A などのパフォーマンスを評価するために教員が順番に部屋を訪問していきます。対面式では個室を予約したり学生を移動させたりするのが大変でしたが、Zoom ならランダムなグルーピングの部屋を一瞬で作って活動に入ることができます。教室では物理的な距離が心理的な距離にもつながりがちですが、Zoom は1対1のパーソナルなつながりが対等に複数存在するイメージになります。発音する際の口の様子を至近距離で見やすく示したり、ブレイクアウトルームで一人一人を個室に割り振って発音や口の動きを個別にチェックしてあげたりするのにとても便利です。
5 遠隔だから「こそ」の安全・安心空間
実は遠隔授業で救われている学生もいるようです。例えば対人関係が苦手なB君は昨年度不登校気味になっていましたが、今年度は家で授業を受けられるので、驚くことに今まで1度も授業を欠席していません。集団への漠然とした恐怖心があったようですがPC越しならいつでもビデオオフにできるという安心感があるとのことです。Zoom のプライベートチャット機能で宛先を指定すれば、教員しかメッセージを読めないので間違った発言で恥をかく心配もありません。また私自身もあがり症なのですが、大勢の前で話すプレッシャーを感じなくなった気がします。
6 最後に
このコロナ禍にあって、我々はある意味、デジタルを前提とした未来(Society 5.0)に留学している状態なのではないでしょうか?留学は大変だけれども鍛えられる環境を一定期間自分に強いることで、スキルを劇的に伸ばすことにつながります。今までの常識がひっくり返された今、大人も子供も自分軸を持って「新しい生活様式」を学ぶ時代に入ったと言えます。私も日々の「やらなければならないこと」に終始して「やったほうがいいこと」に手がつかず、それをつい状況のせいにしがちです。新しいことを始める時には不安もありますが、怖れはワクワクの裏返し、ジェットコースターが「カタン、カタン…」と登っている時のあの恐怖とワクワクの混じった気持ちに似ている部分もあります。責任転嫁せずに自分の頭で真剣に考え、怖れを乗り越えることでそれがワクワクに変わったり、人生のステージが一つ上がって見晴らしが良くなったりすると信じています。そのような生き方を学生にも強調していますし、自分も挑戦し続ける大人として、それを背中で語っていきたいです。
二十歳になってヒッチハイクのオーストラリアから戻った僕は、以前の小さな世界の自分にはもう戻れないと感じていました。怖いと思っていた挑戦が後で振り返って見たら「恵み」に思え、世界がこの留学期間の始まりに感謝する日がいつかやってくるかもしれません。